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未練があるなんて、思わないで下さい  作者: みん


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9/13

9 2人の出会い

「それ、貴方の診察ミスとか──」

「いくら誤魔化したところで、すぐにバレるような嘘をつくのはやめた方が良いわよ。出産を故意に遅らせたりする事なんて、できないのだから」


フラヴィアさんから、スッと笑顔が消えた。


「勘違いしないでもらえる?お腹の中の子は、100%アシューの子だから。私の初めてを捧げたのがアシューで、その初めてでこの子ができたの」

「それで?関係を持ったのは?」

「3月よ。アシューが領地に来てから数日後だったわ」


それからフラヴィアさんから聞かされた話は、私を傷付けるには十分な内容だった。





アシュトンが領地に行ってから数日後、領地の貴族の食事会に招かれて行った屋敷で、侍女として働いていたフラヴィアさんと出会い、アシュトンと会話が弾んだそうで、夕食会の後も2人で話をしていたそうだ。そうしているうちに、酔いも手伝ったのか、アシュトンが『そろそろ子供が欲しいけど、なかなかできなくて……』と言い出し、『なら、私と試してみますか?』と、フラヴィアさんが冗談交じりで言うと、アシュトンがそれを受け入れたのだと言う。


「関係を持ったのはその一度だけ。翌日の朝、アシューの顔は真っ青になってて、それからは私を避けていたけど、そうしてるうちに事故に遭って……たまたまお父様が発見したけど、アシューは記憶を失っていたの」

「何故、すぐにブレイザー家に知らせなかったの?」

「そんなの決まってるでしょう?生死の境を彷徨った伯爵様を助けて、愛し合うようになった──なんて、夢物語じゃない?記憶を失ってから愛し合って子供ができたなら、誰も文句は言えないでしょう?だから、敢えて知らないふりをして、報告もしなかったの。それに、ウチの領地は辺鄙な所にあるから、捜索届すら来てなかったから、本当に私以外はアシューが尋ね人だと知ってる人はいなかったわ」


事故は、本当に偶然だったようだけど、関係を持ったのは私と離れてからすぐだったという事が分かった。その時、私のお腹の中には子供が居たのに。私は子供を失ったのに、フラヴィアさんのお腹にはアシュトンの子供が居る。


ーもう無理だわー


『子供は自然にできれば良い』と言ってくれたのもアシュトンだった。だから、私も焦る必要はないと思っていたのに、アシュトンの本音はそうではなかった。


アシュトンの記憶さえ戻れば、私の元に戻って来てくれると思っていたけど、もう無理だ。


それに、この事実を言ったとしても、私が嫉妬して嘘をついていると言われるだろう。貴族は他人の不幸話や夢物語が大好き。真実よりも、より面白いものを好む。

おまけに、義母も私を追い出す為にフラヴィアさんを正当化するだろう。何よりも、フラヴィアさんのお腹の子の父親はアシュトンで、ブレイザー伯爵家の跡取りとなる。その子供には……何の罪もない。


「最後に一つだけ……今の貴方は、アシュトン=ブレイザーを本当に愛しているの?」

「『好きか嫌いか』で聞かれたら、好きよ。それで?この事をアシューに言うの?」

「安心して。私から伝える事はないし、追い出すような事もしないわ」


ー今のアシュトンには、私の声は届かないからー





「本当にこんな量の仕事を、マリレーヌさんが1人で毎日していたのか?」

「以前はお2人でされていましたが、この半年は奥様が殆どお1人でされていて、私は少しお手伝いしていただけです」


執務室に入る前に、アシュトンとアンセルの会話が耳に入り、そのまま扉を開けずに耳を澄ました。


「それなら、私が急いでしなくても大丈夫なんじゃないかなぁ?今はラヴィーの体が心配で、()()()()をしている余裕がないんだけど……」

「『()()()()』ですか?これは、伯爵としての義務であり、旦那様がすべき大切な仕事です」

「アンセルは真面目過ぎるな……」

「……」


ーこれは、本当にアシュトンなの?ー


私の知ってるアシュトンは、仕事を疎かにする人じゃなかった。ブレイザー伯爵としての矜持を持っていた。若い伯爵だと見下されても、努力して前を向いて進んでいた。

甘い道に逃げたりする事はなかった。


「フラヴィア様の事は、主治医のカロリーヌ様が付いているので大丈夫です。ですので、今は奥様と──」

「マリレーヌさんにも子供が居たら、私やラヴィーの気持ちが分かったんだろうなぁ……そうしたら、帰って来て早々()()()()()()はされなかっただろうね」

「旦那様……」


旦那様と呼んだアンセルの声は僅かに震えていて、そこに怒りと軽蔑が混ざっている事が分かる。


「マリレーヌ様、今日はこのまま休んで下さい。ノエラにお茶の用意を頼んでおきますから」

「そうするわ……」


カロリーヌさんにそう言われた私は、執務室の扉を開ける事なく、その場から離れて庭園に行く事にした。





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