7 診察結果
「急な訪問を受け入れていただき、ありがとうございます」
「こちらこそ、ありがとうございます」
邸に戻って暫くすると、客人がやって来た。
「私の名前はリシュー=コペリオンです。いつも、叔母上がお世話になっております」
「それこそ、いつもお世話になっているのは私の方です。さぁ、堅苦しい挨拶はこれまでにして、楽にして下さい」
「ありがとうございます」
このリシュー=コペリオン様は、カロリーヌさんの兄の子で、今回、予定より早く帰ってこられたのは、このコペリオン様のおかげだったらしい。
『私には甥が居るんだけど、その子が転移魔法が得意でね。丁度ノエラからの連絡が来た時一緒に居て、私をここまで飛ばしてくれたのよ』
カロリーヌさんはサラッと言っていたけど、転移魔法は誰にでも扱える魔法じゃない。かなりの魔力持ちでなければ扱えない。だから、この人は相当な魔力持ちなんだろう。
そして、カロリーヌさんのお願いというのが、この人をこの邸に数日滞在させて欲しいという事だった。勿論、断る理由はない。
「客室を用意しているので、そちらでゆっくりしてもらっても良いですし、庭園に出るようでしたら、使用人に案内させるので、いつでも声を掛けて下さい。何か希望はありますか?」
「あー……もし、不都合がなければ、一つだけお願いがあるんですが……」
と言われてやって来たのは執務室。
「この辺りの資料でしたら、見ても大丈夫です」
「ありがとうございます」
彼に渡したのは、この数ヶ月の天候と農作物の収穫率に関する資料で、これは申請すれば一般的にも公開しているものだ。
「やっぱり、素晴らしい資料ですね」
「え?」
「これは、ブレイザー伯爵が?」
「いえ……この資料は私が作成したものです」
アシュトンの仕事の手伝いを始めた時、文字や数字だけで纏められた資料が読み難くて、自分が分かりやすいように纏めた資料を作ったら、平民にも分かりやすいという事で、それ以降、私が資料を作る事になった。
「色んな図案で表記されているから、一目で資料の内容が把握できますね。本当に素晴らしいですね」
「ありがとうございます」
ここまでダイレクトに褒められると嬉しいけど、恥ずかしくもある。
「叔母上が、薬草に関した物を纏めた資料を作っていたのを目にした事があって。その資料がとても分かりやすくて、すごいなと言ったら、ブレイザー家の資料を元にしてみたのだと言われて、それから気になっていたんです。少し、質問しても良いですか?」
「ええ、どうぞ」
彼の望みは、ブレイザー家の資料を見る事だった。勿論、ブレイザー家に関する資料を見せる事はできないから、一般公開している資料を見せた。それだけなのに、彼はとても楽しそうに資料を見ては、私に色んな質問をしてきた。『甥は兄にそっくりな生粋の文官なの』と言っていたから、こういう物が好きなんだろう。
ー懐かしいな……以前のアシュトンもそうだったのにー
少し胸は痛むけど、私は久し振りに執務室で楽しい時間を過ごす事ができた。
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「カロリーヌさん、お疲れ様です」
2人の診察が終わってから、カロリーヌさんが執務室にやって来たのは、お互いの昼食が済んでからだった。今、この部屋に居るのは、私とカロリーヌさんとアンセルとコネリーとノエラの5人。4人で診察結果を聞いて、これからの事を話し合う予定──なのだけど、どうにもカロリーヌさんの様子が尋常ではなかった。
「あの……カロリーヌさん、どうかしたの?何か……問題があった?」
「問題があったか?あったわ……とにかく……診察結果を報告します。先ずは、アシュトン様から──」
アシュトンについて、やはり一部の記憶喪失はあるものの、左足の後遺症も同様に、日常生活で困る程のものではないとの事。記憶に関しては、いつ戻るのか、それとも戻らないのかは分からない。左足は、リハビリすれば、軽く走れるようにはなれるそうだ。本人次第だから、アシュトンには頑張ってもらうしかない。
という事で、基本心身ともに元気だから、執務を始めるのに支障は無いそうだ。
「寧ろ、衰えた頭と体を動かす為に、今すぐにでも仕事を始めるべきです」
カロリーヌさんの、アシュトンへの悪態が続いている。
「そして女狐……フラヴィアについて……母体共に問題なし。悪阻も殆どないようで、健康体です」
「それは……良かったわ」
「それで……女狐の出産予定日なんですけど……」
「?」
そこで、珍しくカロリーヌさんが言い淀む。スカレティア皇国は、妊娠出産の医療も進展していて、出産予定日も高確率で判断できるらしい。それでも言い淀むのは何故か?何か、問題があったのか?カロリーヌさんを見つめたまま、次の言葉を待っていると、ふうっと息を吐いてから口を開いた。
「出産予定は、12月の中旬です」




