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未練があるなんて、思わないで下さい  作者: みん


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13/18

13 スカウト

「コペリオン様、本当にありがとうございました」

「夫人も、お疲れ様でした。あ……まだ成立はしてませんが、もう“夫人”ではありませんね」

「これからは、私の事は“マリレーヌ”と呼んで下さい」

「それでは、私の事は“リシュー”と呼んで下さい。家名で呼ばれたり、堅苦しいのはどうも……」

「分かりました。あの……口調も崩してもらって良いですよ?私はもう“伯爵夫人”ではありませんから。寧ろ、私が敬語を使わないといけませんね」


ハッキリと聞いた事はないけど、おそらく、リシュー様はそれなりの身分なのだと思う。隠しているつもりでも、彼が纏っている雰囲気が特別だと言っている。


「そう言ってもらえるとありがたい。けど、マリレーヌさんも、私には過剰な敬語や気遣いはやめてもらいたい」

「分かりました」

「それで、これからどうするの?取り敢えず、実家に戻るんだろうけど……」


実家──と言っても、今は叔父の家族が住んでいる。勿論、今回の事を全て手紙に書いて送ったら“いつでも帰って来なさい”と返事ももらっている。だから、取り敢えずは実家に戻るつもりだけど、落ち着いたらあの家も出ようと思っている。慰謝料のおかげで、贅沢をしなければ暫くの間は細々とでも生活ができるから、その間に何か仕事でも始められれば……。と言っても、サザリアンでの独身の女ができる事は限られている。


「私にできる事……仕事を探すつもりです。叔父には迷惑をかけたくないから……」

「それなら、スカレティアに来て、私の職場で働くのはどうかな?」

「え?」

「私の上司は父なんだけど、気難しい人で、なかなか合う人が居なくて人手が足りなくて、本当に大変でね……でも、マリレーヌさんとなら、上手くいきそうな気がするんだよね」

「何を根拠に?と言うか、私、何かに優れているなんて事はありませんよ?ブレイザー家の執務ですら、いっぱいいっぱいだったから」

「本当に、君は自分の評価が低いんだね。あの量の執務をこなしているだけでも凄いと思うし、特に資料のまとめ方は素晴らしいものだし、土地の改良の提案も素晴らしいものだったよ」


土地の改良に関しては、提案をしたのは私だったし、領民からはとても感謝された。でも、私が評価される事はなかった。評価されたのはアシュトンだけだった。


「あの提案をしたのは、ブレイザー伯爵じゃなくて、マリレーヌさんだよね?」

「何故──」


知っているのか?


「ブレイザー伯爵に、あの提案ができるほどの能力があるとは思えないからね……って、失礼………」

「………ふふっ…………」


少し前の私なら、アシュトンを馬鹿にされて怒っていたかもしれないけど、今は、私が認められたようで嬉しいと思える。


「まぁ、とにかく、マリレーヌさんが少しでも私の誘いに興味があったら連絡して欲しい」

「ありがとうございます」


それから、少しだけ話をしてから、私達は別れてそれぞれの部屋に戻った。






**カロリーヌ視点**



「人って、相手によってあそこまで変わってしまうのね」

「以前の伯爵は、マトモだったんですか?」


事故に遭う前のアシュトンは、自分に足りないものを努力で補う人だった。自分よりできるマリレーヌを羨んだり嫉妬する事はなく、マリレーヌの助けを受けて更に努力する人だった。


「『できない』と言って、投げ出すような人じゃなかったわ」

「甘い方に逃げたという事ですね」


なんとなく嬉しそうな顔をしているのは、私の甥のリシュー。気難しい兄よりは、少しだけ柔らかい感じはあるけど、基本的には兄と同じ仕事馬鹿。顔は良いのに27歳になっても彼女すら居ない。心配になっていたけど──


「リシューが、女性を気にするのは初めてよね?」

「マリレーヌさんの事ですか?」


ーえ?もう名前呼び!?ー


「確かに、彼女は優秀ですよね。サザリアンに居るのは勿体ないから、()()()スカウトしておきました」

「は?」

「サザリアンでは、離婚女性への風当たりが強いでしょう?マリレーヌさんなら、スカレティアでならどこででも能力を発揮できると思ったので、ウチにスカウトしたんです」


スカレティアに誘っただけじゃなく、自分の所にとは驚きだ。リシューの言う通り、マリレーヌは優秀で、マリレーヌだからこそブレイザー伯爵家を立て直す事ができた。

それでも、あのリシューが自らスカウトするとは。


「無自覚よね?」

「何がですか?」

「何でもないわ。気にしないで」


仕事馬鹿な脳だから、そこに()()()()は無いのかもしれないけど、全く無い──事もないんじゃないかしら?


「マリレーヌなら、嬉しい限りだけど」

「でしょう?マリレーヌさんなら、なんとなく父とも合いそうな気がします」

「お兄様でも、マリレーヌに何かしたら……私が許さないと言っておいて」

「大丈夫ですよ……まぁ……彼女の気持ち次第ですけど、一緒に仕事ができたら良いなと思ってます」


その時の甥の笑顔は、可愛らしい笑顔だった。





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