12 離婚
「簡単に言うと、夫人が損をする事なく離婚できますよ」
アシュトンへの気持ちが切れた翌日。カロリーヌさんが、コペリオン様を連れて執務室にやって来た。離婚についての話と言われて、話を聞いていると、コペリオン様が離婚の手続きを手伝ってくれると言ってくれた。しかも、私が損をする事もなく。
「あの2人が、事故前に関係を持ったと言う証拠は、フラヴィアさんの証言以外にはありませんよ?妊娠予定日も、何かと難癖をつけられるかもしれないし、世間では向こうの支持が多いから、影響を受ける可能性が……」
「証拠はあるから大丈夫です」
「え?証拠が……ある?」
「我が家の……情報部は優秀で、証拠はすぐに掴めました」
「え?何故……調べて………?」
離婚すると決めたのは昨日だった。だから、裏切りの証拠を探して欲しい──なんてお願いもしていない。
「叔母上に頼まれていたんです」
「カロリーヌさんに?」
何故?と思ってカロリーヌさんを見る。
「私も主治医を辞めて、スカレティアに帰るから言いますけど、私がブレイザー家の主治医になったのは、マリレーヌ様の母親のアレッサのお願いだったからなんです」
「お母様の?」
私の両親は、10年前に流行り病を患って亡くなった。それ以降、父の弟の叔父が家督を継ぎ、私の事も本当の娘のように育ててくれた。
「アレッサがスカレティア皇国生まれだという事は知ってますか?」
「はい」
「私とアレッサは幼馴染だったんです」
母がサザリアン王国に嫁ぐ事になり、滅多に会う事はなかったけど、手紙でのやり取りは続いていたそうで、両親が流行り病にかかったと聞いてすぐに駆けつけようとしたけど間に合わず、母の死の数日後に最後の手紙が届いたらしい。
“娘に何かあった時は、気にかけて欲しい”
「今でこそ、スカレティアには女医も増えてきて、貴族社会にも受け入れられるようになったけど、私が医者を目指し始めた頃は偏見があって、学校では虐められたりもして。でも、虐められた時はいつもアレッサが助けてくれたんです。だから、いつか恩返しができたら──と思っていたら、ブレイザー家が主治医を探していると聞いて、すぐに応募したんです」
「そうだったの……」
「なので、マリレーヌ様がここを出て行くのなら、私も出て行きます。留まる理由がありませんから。慰謝料をきっちりいただく為に、いざという時の為に、リシューに証拠集めをしてもらっていました」
「この集めた証拠で十分だし、附加案件もあるから、夫人に有利な形で離婚できますよ。私に任せてもらえますか?」
「え?」
「あ、この子の事は信用してもらって大丈夫です。私が保証します」
コペリオン様の事はよく分からないけど、カロリーヌさんの事は信用できる。正直、私は何から何をすれば良いのか分からないから、してくれると言うなら、是非ともお願いしたい。
「よろしくお願いします。お礼は必ずさせていただきます」
「お任せください」
******
それからの事は、あっという間に話が進んだ。難癖をつけてくるだろうと思っていた義母も、特にごねる事もなく、コペリオン様の提示した書類にサインをした。
ただ、意外な事に、すぐにサインをしなかったのが、アシュトンだった。アシュトンの目には、フラヴィアさんしか映っていなかったし、子供の為にも私とはすぐに離婚して、フラヴィアさんを夫人にすると思っていたから。
「マリレーヌさんは、これからどうするつもりなんだ?私が言うのもなんだけど、離婚された女性が生きやすい世界ではないだろう?運良く次の相手が見付かったとしても、マトモな相手とは限らない。それなら、このまま──」
「『離婚された』ではなく、『離婚した』です。それと、離婚して女性が不利というのは、サザリアンの悪習です。他国では、離婚しても何の柵にもなりません」
「それは、他国の話で──」
「このままの生活を続けろと言う方が、苦痛を強いるという事が分からないのか?」
まだ食い下がろうとするアシュトンに、コペリオン様がピシャリと言い放つ。
ー私が好きだったアシュトンは、どこに行ってしまったんだろう?ー
それとも、これが本来のアシュトンだったのか。胸に残っている痛みが、少しずつ消えていくのが分かる。
「これからの事を、アシュトンに心配してもらわなくても大丈夫よ。そもそも、離婚をお願いしたのは私だから」
「そ……そうか………なら……」
と、アシュトンはようやく離婚届にサインした。
「この書類を神殿に提出して、受理されるまで2日から10日ほどかかり、成立するとすぐに連絡が入ります。それまで、夫人はここで過ごしますか?」
「いえ……ある程度、身辺の整理は終わっているので、荷物がまとまり次第、この家を出ます」
「分かりました」
コペリオン様が書類を纏め終わるのを確認した後、私はコペリオン様と一緒に部屋を出た。




