不可解な点
本作品はカクヨムにも投稿しています。
時刻はもうすぐお昼といった頃。
私はある部署の部屋で、直属の上司の前に立っていた。
その上司、ハクヤは私が提出したデータを端末でスクロールしながら、しばらく唸っている。
疲れるから座りたい。
「ん、あぁすまん、座ってていいぞ」
まるで私の思考を読んだような言葉だけど、もう特に驚かない。
この男は昔から、こういうテレパスじみたことをする。
「……言っとくけど、お前の表情がわかりやすいだけだ」
「ハクヤ以外はみんな、私の表情をわかりづらいって言うけど」
「まぁ、付き合いのみじけぇ連中はそう言うだろうさ」
軽口を挟みながらもデータを見終えたらしいハクヤは、端末を雑に置くと長々とため息をつく。
「捕食者か」
「あの世界の破壊痕と、蒼斗の体内に眠る因子はそう言ってる」
捕食者。それは厄災の獣の分類のひとつだ。
どういう生態か、どういう攻撃をするか、その辺りで判別される。
「お前自身の感触はどうなんだ」
「まだなんとも。彼の能力はまだ覚醒してないし。ただ……」
「ただ?」
「気になることはある。分類の話じゃないんだけど」
「言ってみろ」
手を頭の後ろに組み、背もたれに寄りかかりながらハクヤは促す。
「ハクヤには言うまでもないことだけど、刻印持ちは厄災の獣の死に間際に生まれる」
「厄災の獣が、死ぬ直前に能力を他人に移す……いや、寄生させる」
ハクヤの目が鋭く細められる。
「最初の報告じゃお前、獣の死体は見てないって言ってたな」
「うん。そのときから、おかしいとは思っていたけど……改めてあの世界のことを調べて、確信に変わった」
蒼斗の世界に、厄災の獣を殺せるだけの武力も技術もない。
「蒼斗の世界を滅ぼした厄災の獣は、まだ生きている」
「……過去にないパターンだな、そいつは」
「あの世界にはほんのわずかな時間しか滞在できなかった。けど、蒼斗が刻印持ちである以上、死体があるとしたらあの近くで、それに気づかないわけがない」
「わかってる。別にお前の能力を疑っちゃいねーよ」
ハクヤは長く息を吐くと、あごに手を当ててまた唸り始めた。
「……だとするとよ、リゼ。あの坊主の持つ刻印はいったい、誰のものなんだ?」
「……わからない。けど、もしかしたら」
私の言葉を遮るように、部屋の窓を叩く音がした。
揃って目を向けると、そこには小さく不定形の影が浮いている。
窓を開けると、影は光を放って実体化した。
それは、ある人物の操る精霊だ。
この精霊がここに来た、ということは。
ざわつく予感。
精霊が耳元で囁き、それが的中したことに思わずしかめっ面になる。
「……もしかしたら、疑問の答えが出るかもしれない」
「花師の精霊? まさか」
「うん。蒼斗の内に眠る因子が……目覚めた」




