目覚めてしまった意思
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「このまま全身の感覚を無くして、生かしたまま解剖してもらうことにしよう。その方が、研究のためになる」
脱力して膝をつく杠葉蒼斗を前に、僕──キオル・プロテオは淡々と告げる。
厄災の獣に世界を滅ぼされ、自身もまた力を刻まれた男。
同情はしてやるが、命令は命令だ。
それにこの男がいるからあの人は、リゼさんは立場を悪くしているんだ。
この男がいなくなれば、あの人に対する上からの圧力も弱まる……はず。
そのためにも、この男の意識を完全に奪う必要がある。
「……ん?」
「ははっ……! くはははははッ!」
「っ!?」
突然杠葉の気配が変化し、背後に跳ぶ。
杠葉は大きく口を開け、高らかに笑っていた。
なんだ、いきなり?
絶望的な状況を前に頭がいかれたか?
……いや、違う。
こいつ、一瞬で雰囲気が変わった……?
「あーあ」
膝立ちのまま、杠葉がニヤリと笑う。
「お前、死ねよ」
瞬間、杠葉の背中から何かが生えた。
細く黒く、よくしなるそれは鞭のようで、先端部には剣を思わせる鋭利なパーツがある。
あれは──尾、なのか?
数は四本、背中からクロスを描くように生えてきたそれは、切っ先を僕に向けた。
「っ!?」
速いっ!?
瞬く間に伸びた尾を、辛うじて避ける。
直後、立っていた場所に四本の刃が突き刺さって炸裂した。
そして広がる粉塵を振り払うように、突き破るように、再び尾は伸びる。
感覚を絶つ……いや、触れられるか?
僕の能力は「触れた部位の感覚を一定時間無くす」もの。
部位は腕や足、胴体や頭といった区切り方をし、効果時間は3分間。
そこだけ聞けば無法な能力のようにも思えるが、当然弱点がある。それも単純な。
1つ、体力消費が激しい。ターミナル人の持つ異能は、心臓が生み出す魔力を「こういう能力」として外部に放出する。
僕の場合、魔力を「触れたら感覚を奪う能力」という形に脳内で加工し、相手に触れる瞬間に発動するわけだ。
2つ、そもそも感覚を無くしているだけで、動かせなくなるわけではない。
3つ、間合いが短い。手で触れることが発動条件である能力は、当然手の届く距離までしか対象に取れない。
4つ、これが最も単純にして最も致命的な弱点だが──。
「触れた瞬間、斬り飛ばされる……!」
能力を発動する際、僕の手は特に強化されたりしない。
そしてこれは能力の弱点と同時に僕の欠点でもあるが、身体強化、硬化系統の異能を僕は使えない。適性がないから。
……マズい、能力に覚醒していないと聞いていたのに、なんだこれは……!
内心で毒づきながら尾を避ける。
実質無能力者が相手ならと、中途半端に能力を行使したのが裏目に出た。
このまま防戦一方のままだと、徐々に杠葉の体が元通りになってしまう。
今は尾しか動かせないようだから回避に集中できているが、杠葉自身が動けるようになればどうなるかは分からない。
恐らく能力の覚醒に合わせ、身体能力も底上げされているはずだ。
「おいおいおい!」
杠葉が声を張り上げる。
「さっきまでの余裕ぶった態度はどうしたー? 雑魚みたいに逃げてばっかでだっせぇなぁ!」
「このっ、いい気になるなよ!」
与えられた命令は捕獲であり、可能な限り傷つけることなく、と念を押されている。
刻印持ちは希少で、人道的観点からも解剖や人体実験は認められていないが、それはあくまで建前に過ぎない。
リゼさんを含めたこれまでの刻印持ちは、ターミナルで保護された時点で能力に覚醒していて、非人道的な実験を行うことができなかった。
当然、抵抗された際に打つ手がないからだ。
けどこの男は違う、はずだった。
能力に覚醒していないからこそ、今のうちに解剖してしまおう、それが上の判断。
だがこうなった以上、それは無理だ。
なら、一番弱い、今この瞬間に殺すしかない!
「お前はここで処分する!」
上着の下に隠し持っていた拳銃を抜き、引き金を引く。
が、しかし。
「はっ!」
尾が機敏に反応し、弾丸を叩き落す。
精度が尋常じゃない……!
「なら……!」
弾倉を抜き、別のものに交換。
引き金を引く瞬間に魔力を込め、トリガー。
「がっ……!?」
放たれた弾丸は黄金の輝きを纏って飛翔し、杠葉の尾を貫く。
──殺った!
「はっ」
にやりと、杠葉が嗤う。
瞬間、奴の右目が割れた。
そして光弾は右目に吸われ、消滅した。
……いや、喰われた?
杠葉の右目が変化して現れた、獣の顎のようなものに。
「動き止まっちまったなぁ!」
「しまっ……!?」
四方から襲い来る刃。
それを避けきれず、体から鮮血が流れる。
「おらぁッ!」
杠葉が大きく跳ね、僕の体を踏み潰した。
「っ……!」
「雑魚乙!」




