調停者
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殺される。
鋭い殺意に思わず目を閉じ──けれど、痛みも意識の途切れも、訪れることはなかった。
「なん……だ?」
僕が目を開けると、杠葉が地面に倒れていた。
さっきまで肌を突き刺すようだった殺意は消え去り、辺りには色とりどりの花が咲き誇っている。
「これは……まさか」
「わ、私の力……です」
どこか怯えたような声がした。
聞き覚えのある声だ。
振り返ると、背後にステッキを持ったローブ姿の女の子が立っている。
フードをかぶっていてなおそうと分かるのは、声と小さな背丈、そして何よりこの能力。
「お久しぶりです、キオルさん」
フードを払うと、まず水色の、後ろで三つ編みになった長髪が目に入る。
こちらを見つめる瞳はピンク色で、たれ気味の眉毛もあって全体的に小動物みたいなイメージを抱く……が、その力は小動物なんて可愛らしいものじゃない。
「ユノ・ガナテハ……。花実の魔術師が、どうして」
「任務……です。彼の監視兼、護衛」
ユノ・ガナテハが視線を向けた先には当然、杠葉がいる。
ということは、だ。
「最初から見てたのか」
「は、はい。人払いの結界に侵入するのに苦戦しましたけど、この子だけは潜り込ませることができたので」
彼女がそう言って手の平を広げると、空から小さな人影が降りてきた。
あれは精霊だ。
「この件はリゼさんにも伝えてあります。……ここは、退いてください」
「……キミが任務で来ているように、僕も任務でここにいる。そう簡単には退けない」
──瞬間、ユノ・ガナテハが手にしていたステッキの柄で地面を叩く。
直後に花が広がり、あっという間に俺の体を取り囲んだ。
「……冗談だ。たとえ僕が万全の状態でも、キミと真正面から戦いたいとは思わない」
降参だと両手を上げると、少しして花が散っていく。
あれが全部意識障害を引き起こす花弁だというのだから恐ろしい。
「キオルさん。恐らくあなたは今後、この件についての取り調べを受けることになります」
「わかっている、そのくらいは。……命じられたとはいえ、火種相手とはいえ、民間人を殺そうとしたんだ。咎は受ける」
少しでもあの人の、リゼさんの負担を減らしてやることができたら、なんて思ったけど。
出しゃばったかな。
「それじゃあ僕は失礼するよ。悪いけど、彼のことは運んでやってくれ。……もちろん、僕が手伝ってあげても構わないけど」
「それには及びません。あなたは、まだ彼を諦めてない。……違いますか?」
「どうかな。もう目覚めてしまった……いや、それすら僕のせいか。ならなおさら、その責任を取らなきゃいけないとは思っているけど」
そんな隙を与えてくれる彼女じゃない。
それに、正直僕も限界だ。
ひらひらと手を振って、僕はその場を後にした。




