66.男爵家の兄弟
男爵家の兄弟二人の話ははるか昔までさかのぼる。
発端は爵位を継ぐ前日の夜に兄が言った一言だった。
「なぁ、イコルセンテ。お前ギルドに入らないか?」
「急にどうしたんだ?兄さん」
「明日俺が男爵家を継ぐことになる。イコルセンテは爵位のないまま男爵家の次男として過ごすよりももっと大きな夢をつかみたくないか?」
「大きな夢?」
「あぁ!すごく大きな夢だ!!俺は一男爵として自分の人生を終える気はさらさらない。いずれはこの国をガジス王家から奪い取ってやるつもりだ!でもこの計画は一人では実行できない」
「そこからギルドにどうつながるんだい?」
「ギルドにはこの大陸中から情報が集まってくる。いいか?情報は武器だ。どんだけ強い軍隊をもっていようとも相手の情報がないと戦うことすらできん。だから俺達には情報がいる。うちの私兵どもが集められる情報には限界がある。なんたってうちの規模じゃあ人員をそこまで割けないからな。だからお前をギルドに潜り込ませるんだよ」
「でもギルドは国には関与しないって方針だろ?そんなところにこの国の貴族の俺が入れるわけないじゃないか」
「正規のルートではな」
「どういうこと?」
「裏口があるんだよ」
「裏口?」
「あぁ。実は今年からギルドの代表者が変わったんだが、そいつがアウトバーナーの出身なんだよ。なんでも平の事務員からコツコツと努力してきてトップまで上り詰めたそうだ。そいつに会ってこの箱渡してこい。そしたら話は動くだろうさ」
「それはわかったけど具体的にはどうしたらいいんだい?」
「簡単な話だ。ギルドで手に入れた情報をすべてこっちに流すだけでいい。作戦をどうするかは情報次第で決める」
「当てがないの!?」
「そんなもんはない。いいか?アウトバーナーだけでひっくり返せるほどこの国は弱くない。でもいつかかならず弱るタイミングが来る。それに国が弱らなくてもアウトバーナーを強化出来たらそれでいい。とりあえずそのタイミングを知れたらいいんだ。お前はそのチャンスとなるかもしれない情報をひたすら横流ししろ。あとギルドに入ったらこの地域には近寄るな。じゃないと計画が潰れる」
「わかった。俺も男爵の次男として人生を終える気はないよ。兄さんに協力する!」
「よし。この箱をもってギルドの本部へ行け。そこの受付でこの紙を見せるんだ」
「この紙は?」
「アウトバーナーのギルドマスターからの面会希望書だ。それを見せれば代表者に会えるだろう」
「どこでこれを?」
「偽造だよ。偽造。前にギルドに依頼を出した時にギルドマスターの印鑑の図柄を覚えてたから、偽造させた」
兄は弟に偽造の面会希望書と何かが入っている箱を渡す。
「いいか。明日の朝にアウトバーナーを発て。馬を用意させよう。それから当面の資金だ。失敗するなよ」
「あぁわかってるよ兄さん。明日の朝だね?」
「そうだ。俺は爵位の継承式に忙しいから見送ってやれない。お前の事はうまいこと言っておくからこっちの事は心配しなくていい」
「じゃあ明日行ってくるよ」
「あぁ。この国は俺たちの物だ」
こうして弟のイコルセンテがギルドの本部に向けて旅立った。




