54.ギルド動く
「なぜあなたがデリュート村を知っているの?」
カイラは再度着席すると男に問うた。
「さぁなぜだろうなぁ」
男は下卑た笑みを浮かべて答えた。
デリュート村はシルの生まれ育った村でシルの両親はそこで鍛冶屋を営んでいた。シルの口調が男の子っぽいのは鍛冶屋の弟子に男性が多かった影響である。
「カイラさんはシルの事を見捨てるのかね?」
男は笑みを浮かべたまま聞いてくる。
「な、私の名前まで知っているの?」
カイラは驚いた。
カイラ達三人は男が接触してきてから、男の事を警戒し一切名前で呼び合っていない。
にもかかわらず男はカイラの事を名指ししたのである。
緊急指名依頼を発注する時点で誰かの名前を把握しているのだろうとは考えていたカイラ達だがもうちょっと警戒すべきだったようである。
「緊急指名依頼を発注するんだ。名前を知っているのは当然だろう。三人全員の名前を知っているしある程度の事は調べてある。ただカイラに関しては数年前以前は一切情報がつかめなかったがね」
男は笑みを浮かべた顔から真顔に戻り立ち上がるとカイラに顔を近づけ囁いた。
「あまり自分たちの事を過信するなよ小娘が。Bランクギルドメンバーなんぞ、ざらにいることを忘れるな。命が惜しければ従うんだな」
男は言い終わると再び笑みを浮かべ着席する。
「一日考えさせて頂戴」
カイラはそう言って立ち上がった。
「かまわんさ。気が変わったのなら明日ギルドのロビーにいるから声をかけてくれ」
男は言った。
その言葉を聞き終えるとカイラ達は喫茶店を後にした。
「おまたせしましたコーヒーです。あら?お連れの女性の方は?」
店員が男にコーヒーを持ってきて、不思議そうな顔をした。
「ちょっと用事があるようでね」
男はそう答えるとコーヒーカップに口を付けたのだった。
一方で喫茶店を退店したカイラの足取りは重かった。
男がこちらの情報をつかんでいること。そしてシルに至っては実家までばれていて尚且つ暗に危害を加えると脅されたのである。
シルの顔色も当然悪かった。
「これはギルドに通報しないといけないわねぇ」
ムルが言った。
ギルドにはこういう脅されて危険な依頼や損を被る依頼をを受けることが無いよう脅迫や危害を加えた人にギルド独自の制裁を加えることが出来る権限を持っていた。
しかしカイラ達は男の事を何も知らないのである。
男は自分の事を「ダンケ」と名乗っていたが偽名なのは明白だった。
ただムルの言うギルドに相談するしか解決策らしきものはない。
カイラ達三人は足取りの重いままギルドに向かうのだった。
「そんなことがあったんですね」
カイラ達はギルドにつくとギルドの受付にいたリルに相談していた。
「わかりました。リーウェンのギルドメンバーとしてカイラさんたちにはいろいろと助けてもらいましたから今回はギルドがカイラさんたちを守りましょう!」
リルは言う。
「本当!?ただ私たちは相手の事を何も知らないわよ」
カイラはリルに言った。
「まずはギルドの本部に「ダンケ」という危険人物が登録されていないか照会してみましょう。もしかしたら同じ偽名で悪事を働いているかもしれませんしね」
リルはそう言うと受付を離れギルドの奥に消えていった。




