↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
劣等騎士、追放ライフは剣精霊姫とともに  作者: たまねこ
ギルド編
36/38

クリスタルビースト1‐3

 その爪は軽く人を切り裂き、命を奪う鋭さを持っている。

 反応できたとしても爪の一閃を防ぐのは容易くない。

 女戦士もちびっ子ことナナシが肉塊になるのを想像して顔色をかえるが……。



「ク……」



 それは呻く声ではなく、



「クク……あはは!」



 笑い声である。

 クリスタルビーストの牙が体に食い込む前、ちびっ子はその牙を掴んで狼の突進を防いでいた。

 しかもやすやすと。

 それに驚いて女戦士は目を見開く。

 小さい体に細い腕でどうやってそんなことができるのか。

 狼が後ろ足で床を蹴るがびくともしなかった。


 ちびっ子は表情を歪めて唇の両端をつり上げるとブレスを吐き出す態勢に入った狼の口を強引に閉じた。



「得物がないから決定的なダメージはあたえられないけど、ねじ伏せるのはたやすいのよ」



 ちびっ子は狼の口を両手で握り、持ち上げる。

 狼は爪で空を掻くが抵抗すらなってない。

 何だかんだいっても自分たちが相手にならなかったクリスタルビーストをナナシは力で圧倒してきるから女戦士は魔核を取り出すのも簡単なのでは、と思った。

 だが簡単にすむようなら一流の実力者たるナナシも警戒はしないだろう。

 危険はあるからいまだ目付きは鋭く、冷たい眼光を狼に━━ではなくクロエに!?



「クロエ君。私が何を言いたいか分かる?」

「いや。さっぱり」



 ナナシの険呑な雰囲気に気づいているがクロエは素知らぬ顔で答える。



「私一人にやらそうとしたあげくにただの木刀を渡してきたのはどういうつもり?」

「俺は超一流の冒険者様の力を信用してますから。だからナナシ様は普通の木刀でも大丈夫かと━━」

「気持ち悪いことは言うな!」



 叫んだと同時にナナシはクリスタルビーストをクロエ目掛けてぶん投げる。

 肉体強化はしてないというのに狼が弾丸以上のスピードでちびっ子から放れ、まったく逃げる様子もなかったクロエにぶつかった。


 派手に吹き飛び、転がるクロエ。

 それを見て「死んだ」と思う女戦士。



「アナタもちったー働け!」



 床を蹴り疾走するナナシ。

 わざとらしくピクピクしているクロエにナナシは突っ込み、



「私だけに苦労させるな!」



 思わず魔力・・をこめた拳を握ったナナシは鋭く舌打ちして急ブレーキをかける。

 クリスタルビーストが飛び跳ねたかと思うといきなり向かってきて咄嗟に顔を庇ったちびっ子の右腕を牙がかすめた。

 ただそれだけなのに疲労を覚えたナナシは後ろに下がり、ぎり、と奥歯を噛んだ。

 さきほどのクリスタルビーストの行動、それは自らの意思でやったわけではない。

 現に着地したクリスタルビーストは首をひねるような仕草のあと、クロエとナナシを交互に見る。

 ナナシには分かっている。

 見えていた。


 クロエがクリスタルビーストを自分のほうに蹴り飛ばしたのを。

 ナナシが反応しなければ完全にクリスタルビーストの餌食になっていた。

「あ、悪い」で謝ってすむ問題ではない。

 とはいえ、それはお互い様で足の引っ張りあい、八つ当たりぎみな行為なので互いに文句を言える立場ではないが、



「危ないじゃない! 魔力がほんのちょっと奪われたわ! それにどうしてくれるの!? この腕!」



 必死で見せてくるちびっ子の右肘が結晶のようなものにおおわれ、それを見てクロエは頷く。



「牙に触れるのも要注意、と」

「そこじゃない! 私に謝るべきところじゃない!? 責任とれーっていう場面!」

「あー、悪かった」



 棒読みである。

 表情に申し訳ないという感情の色がなかった。 



「心がこもってない!」



 力いっぱい叫んだナナシは「全力で殴る! 完膚なきまで!」と拳を握って子供みたいに唸るがその前に狼が立ちふさがった。

 それはクロエを守るような立ち位置だったがクリスタルビーストにそんな感情はあるわけない。

 魔力をただ漏れしているナナシを敵として━━あるいは糧として認識・・しているだけだ。

 ボーッと後ろに突っ立っているクロエを無視し、クリスタルビーストはナナシに近寄っていく。

 得物がないためクリスタルビーストを傷つけられないのでナナシは後退する。



「女の子がピンチだというのに平然としているのはどういう神経しているのよ?」

「俺は頑張れと応援しているぞ。トップクラスの冒険者にも興味あるし。自信はないのか?」

「私は自惚れ屋じゃないわ。今の限界がどこまでなのか、知っている」

「それなら同行する人数を増やせばよかったんだ。ちびっ子ならクリスタルビーストがいることも予想できたはず━━」

「私一人だけ犠牲になるつもりはないわ」



 クリスタルビーストが振りおろす爪をかいくぐり、ナナシはクロエに向けダッシュする。

 横に逃げようとしたクロエの腕をナナシは掴み、自分のほうにぐっと引き寄せた。



「俺はちびっ子といちゃつくつもりは」

「私もないわ!」



 叫んだナナシはクロエの頬に触れて顔を近づける。

 それを見てドキドキと顔を赤らめたりする女戦士。

 ナナシは背伸びをしている。

 いいにおいはするのだがクロエは胸ときめくことはせずに身構えることもなくちびっ子を見つめる。

 と、ナナシは小さく何かを呟いて、クロエの胸に人差し指で軽くトン、と。

 軽く押した。


「私だけが狙われるのはイヤ! だからアナタにも付き合ってもらうわ」



 ちびっ子が「べーっ」と舌を出し、クロエは露骨に眉をひそめる。

 ちびっ子を睨んだとしてもそれ(・・)がおさまることはない。


 クロエは自分の体を見てため息をする。



「俺の意思に関係なく魔力が出ている」

「ちょちょいと魔力を狂わせてやったわ。私より今度はアナタを狙うわよ?」



 意地悪な笑みを浮かべるちびっ子の頭をクロエは鷲掴みにする。

 少し力を入れた。



「あだだっ、頭が割れる!」

「それが一流の冒険者がすることか?」

「うっさい! 私だって楽したいもん! 実力がない冒険者(バカ)がいなければここに来るつもりはなかった!」

「すいません」

「女戦士は謝るな!」



 ちびっ子は力だけでクロエから逃れると両手を組んだ。

 にやーっと笑う。



「私に構う暇があったらクリスタルビーストの相手をしたら?」

「アンタはロクな死にかたはしないな」

「そんなこと知っている」



 ちびっ子は小さく呟いてから遠くを見つめるように目を細める。

 別にナナシの事情とかに興味はなかったので追求はせず……


 素早く迫ってくる獣の影に気づいてクロエは後ろに下がった。

 ナナシみたいに受け止めることはできない。

 防ごうとした瞬間、防御にまわした腕を簡単に噛みちぎられるのが分かるからだ。

 地面を引っ掻き、クリスタルビーストはクロエに飛びかかる。

 それもクロエは避けるのだがクリスタルビーストはクロエの動きに合わせて爪を振るい、至近距離でブレスを放つ。

 それは威力もないし広範囲を巻き込むような攻撃でもない。

 一点にブレスを凝縮させ、貫通力を引き上げた一直線の一撃。

 クリスタルビーストの攻撃を軽々と防いだナナシですら受け止めることを断念するだろう。

 それがクロエの喉を目掛けて━━



「まあ、それは予想のはんちゅうなわけだが」



 誰ともなしに呟いたクロエはどこからともなくナイフを━━小型の剣を取り出す。

 その小型の剣の刃で引き絞られたブレスを弾き散らす。

 しかし態勢が悪かったためクロエは少しだけ吹き飛んで倒れこんだ。



「威力相殺は無理だな。このミラーソードは一回しか使えないのが難点か」



 クロエはため息をして刃が砕けた小型の剣を見つめる。

「やれやれ」とした顔のクロエにクリスタルビーストは咆哮をあげた。

 クロエがちら、と視線を投げれば腕を組み不敵な笑みを浮かべているちびっ子の姿。



「ほら、さっさとやらないと死ぬよ?」


 クロエは戻ったら覚えてろよ的な眼差しをナナシに投げたあとでクリスタルビーストを凝視する。



「今使用できる武器じゃ傷つけるのは難しそうだし、どうすれば……って考えるほどでもないか」



 クリスタルビーストの動きには慣れた。

 明確な意思がないから獣のスピードをとらえるのは簡単だ。



「ちびっ子、提案がある」



 クリスタルは獣に背中を向けて走りながらナナシに声をかける。



「何よ?」

「今後の俺への役割のことだ」


 手出しを出すつもりはないらしいにやつきナナシにクロエは薄い笑みを浮かべた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。