透過の剣
「アナタの役割?」
ナナシは眉をひそめる。
「あぁ。今回の件を解決した立て役者はちびっ子と女戦士。俺はただの荷物持ちで戦闘にかかわってない。もちろん、この獣のことはふせること」
そんな会話をしつつもクロエは獣の牙を爪をかわし、視線はナナシに向けられている。
「理由は?」
「めんど……いやいや、お手柄はナナシさんにあげて、俺はちょこっとお手伝いをしただけで」
ぞわっ。
クロエの下手に出たような物言いに鳥肌が立つナナシ。
「正直に言いなさい。面倒なのよね? ね? 後始末とか、報告とか」
「そんなこと、ないよ?」
「私の目を見なさい!」
ナナシは吠える。
クロエはそっぽを向き、女戦士はオロオロする。
「あぁ、そうだ。俺のモットーは目立たずに静かに暮らすこと。誰かさんのせいで学園に通うはめになったが俺は厄介なことはなはかかわらず平凡な日々を過ごしたい」
「それは私だって! 手柄はいらん!」
「アンタの場合は立場上、ダメだろう?」
「だから困っているのよ」
頭を抱えるように呻くちびっ子。
「何で私がこんな。疫病神!」
「それってどんな神だ? 俺が知っているのは」
「あー、聞きたくない聞きたくない」
耳をふさいで駄々をこねる様はみためと同じでお子様だ。
「もう、誰よ私のギルドランクを昇格させたのは! あぁ、メンドー」
「俺が要求するのは」
「話をすすめるな! ちっとは私を慰めろ!」
そう言われても慰める気持ちにはならないし、慰める手など持ち合わせてはない。
自分はただ巻き込まれただけなのだから、ちびっ子にはあとの報告を頑張ってもらいたい。
「女戦士たちが実力考えずにバカをするから」
ちびっ子に責められても言い返せない女戦士は小さくなるだけだ。
「ランク返上できるならしたいわ」
「御愁傷」
「ムカーッ」
「俺はちょっと手伝っただけ。OK?」
「分かったわよ」
「それでカードを発効するわけだが、そこで提案だ」
「何よ?」
「俺を冒険者じゃなくて職員で登録させること」
「は? 何で? 最低ランクの冒険者でもそれなりのものは支給されるし、ランクがあがってクエストや依頼が成功すれば大金夢じゃ」
「あいにく金には困ってないし、目立ちたくない。ジジィは俺が活躍してランクあげるのを望んでいるようだが、俺は思い通りにはなりたくない」
「家は嫌いなわけ?」
「俺の家族はリッカさんだけだ」
「その年で結婚?」
「あ”?」
クロエの声がはねあがる。
冗談でもそんなことを言うな! そんな感じだ。
不機嫌そうにちびっ子を睨みながら、「あ、やばい」と思う。
よく考えたら家族と呼べる存在はリッカだけではなかった。
それを失念したクロエは頭の中で謝っておく。
「冗談はやめてくれ。下手をしたら冗談じゃなく既成事実をもって現実になる」
現在息子の立場のような感じだがリッカは何をするか分からないので用心をする必要がある。
「……悪かったわね」
なぜか謝ってくるちびっ子。
視線を逸らされた。
「一緒に住んでいたからといってそういう仲じゃ━━うざい。犬っころはおとなしく壁に激突してろ」
言葉を中断させてからクロエはクリスタルビーストをきつく睨み付ける。
狼はクロエに突進し、爪を一閃。
「なっ……」
そう声をもらしたのはちびっ子である。
驚いたようにクロエを凝視した。
狼の攻撃はクロエの体を切り裂く━━ことはせずにすり抜けた。
そして次の行動をしようとした狼をクロエは一蹴り。
クロエの言葉通りに狼は壁にベタン!
クロエが何をしたのか、ちびっ子には理解できず━━
「説明!」
「その前に返答だな。怪我なく生還したければ言うことを聞くこと」
「むぐぐっ、鬼畜!」
「平和的な答えが望ましい。どうする? 俺とすればどのような選択でも」
「分かった! 私の権限はそんなにないけど、ギルマスにかけあうことをしてあげる。だから、助けて?」
かわいくしなをつくって手を合わせてくるちびっ子にクロエは冷めた目で沈黙。
性癖がMでないちびっ子は苦虫を噛んだ表情でお願いポーズ。
━━殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!
怨嗟の呟きを吐きまくるちびっ子の前、クロエは無造作に狼に歩んでいく。
自殺行為だ。
まったく警戒すら浮かべていないクロエに狼は渦巻くブレスを吐━━。
ぞくっ。
ちびっ子が全身で悪寒を覚えた瞬間、狼の動きが止まって。
クロエと狼が交差する。
ただそれだけだった。
ナナシの目からクロエが何かをしたようには見えなかった。
いや、かすかではあるが見えたことは見えた。
クロエは軽く拳を握り、狼と接触する寸前。
クロエは拳を振り抜く。
ただそれだけなのに狼の四肢は溶けるように消え、あとに残ったのは紫色の玉だった。
それが狼を存在させていた核、なのだろう。
はじめて見る無傷な核よりも、
「それ、不可視の剣?」
クロエは何も手にしていないわけてまはない。
細い筒━━いや、柄を握っていた。
刃はない。
ナナシは目を鋭くさせ、クロエが手にしているそれを凝視する。
目に見えないだけで魔力が刃と化しているのか?
好奇心でナナシは見えない刃に触れてみたくなったが狼のことを思い出して手を引っ込めた。
軽い気持ちで触れたらいけない、そう思った。
「何よ、それ」
「透過の剣」
クロエは柄を振るって簡単に答える。
「これは体を傷つけずに内側にある心臓部分━━核を斬るだけの剣だな」
クロエは何でもないことのように口にしているがそれを目の当たりにしたナナシにはとんでもないもののように思えた。
「アナタ、ちぃと能力者?」
「冗談。俺はただの劣等生だ」
「どこがよ!」
はじめからそれを使っていれば狼など簡単に━━
そう思っていたちびっ子の前でクロエが手にした柄が粉々に砕けた。
それをちびっ子は目を丸くして見つめ。
クロエは「やれやれ」と呟き頭を掻く。
「これは一回しか使えないから次もというのは期待するなよ? というか、二度とあれの相手はしない」
「アナタ、本当に何者?」
「脇役志願のただの劣等生」
「………」
薄く笑うクロエをちびっ子は胡散臭げに見つめた。




