case1# SHAKE HANDS -4/9
そのシートで百々は今一度、己が手の中を確かめる。なるほど。ひとりごちた。まさに光陰、矢の如しか。灯る残り五分の表示にしみじみ、まぶたを閉じてみる。
「ちょ。ばふぅっ、だぁーっ。ばっ、爆発するってっ。コレ、ほ、本当ですか。本当にしちゃうんですかぁっ」
できず、意味不明の擬音をまき散らした。もうこのさいだ。
「わたし今日っ、死んじゃうんですかっ」
見知らぬ男へすがって問うた。なら男の目はフロントガラスから、チラリ百々へと逸らされる。
「落ち着け。爆発物はこれが初めてじゃない。かつ、それが不発だった試しもだ」
「は、い?」
いや、それこそ落ち着けない事実では。見つめる両目へ言葉を託せば、そこへ涙もたまってゆく。だとして見て取った男の顔は迷惑げでしかない。
「局面に対処するのは初めてじゃない、ということだッ」
言うなりギアを入れ替えた。
サイドブレーキを引き上げ、これでもかとハンドルを回しに回す。
「ぎゃーっ」
ワゴンの後輪から白煙が吹き上がった。
振り回されて百々の叫びも車内に響く。
かすめてワンボックスカーは走り抜けていった。スピンターンしたワゴンの前で急ブレーキを踏み止まる。そのバックドアは、ワゴンがガクンと止まると同時に跳ね上げられていた。
「レーフッ」
中からタンクトップ姿の黒人が呼んでいる。
「だれっ。ど、どなた。知り合い?」
もう何が起きても聞き流す心積もりこそ出来ていよう。
「爆発物解除のプロを呼んだ。乗り換える」
男がワゴンを抜け出し、タンクトップの元へ駆け寄ってゆく。
「遺留品はどこだ」
「彼女が握らされている。取れない」
「なんだと」
そうして交わされた会話が日本語だろうと、知ったことではなかった。ただ百々は、タンクトップの投げるファッキュー並みの視線に縮みあがる。戻った男にワゴンから引きずり出されていた。動転した声も止まぬままに、ワンボックスカーへ放り込まれる。
「出せッ」
「アイアイサー」
閉められたバックドアが鼓膜を震わせていた。タンクトップの指示にアクセル全開だ。ワンボックスカーは走り出す。
吊るされた工具が窓を塞ぐ車内は薄暗く、座席もなければガランとしていた。
「取り出せるか。もう四分ないはずだ」
男は両手を突っ張ると、狭そうに身を屈めている。
「その四分があれば問題ない」
返してタンクトップは百々の手を掴み上げた。閉じた片目で拳の中を確かめ、車体に貼り付けてあった天板を開く。伸びた脚を固定すると、上へ百々のヒジをねじ込んだ。
「ハモ公園だ。ストラヴィンスキー、三分で着け」
運転席へ投げたなら、動くな、と光る白目で百々へと語った。
「そこなら爆発しても被害が小さくてすむからな……」
などと聞こえたくだりは、もう全力でなかったことにするしかないだろう。タンクトップももう、足元の工具箱から小さなスポイトを取り出している。ごつい体を丸めると百々へその先端を近づけていった。
「わあっ。待った。待ったぁっ」
ワンボックスカーは再び『20世紀CINEMA』前を通り過ぎると、次に現れた角を右折。盛大に周囲の工具を鳴らしながら片道三車線の国道へ抜け出している。
「な、何なんですかソレっ。あたし、防護服つけたりヘルメットかぶったりしてないんですけどっ。液体窒素。窒素とか使ったりしないんですかっ」
行く先では信号機が、一斉に青へと切り変わっていた。
「うるさい。テレビの見過ぎだ。だいたい用意している時間がないだろ。そんな現場には報道も間に合わん。間に合わん現場をお前が知らんだけだ。心配するな。こいつは強アルカリ剤だ。接着面の皮膚を薄く溶かして箱を回収する。黙って見ていろ」




