その39
「えっと…。ゴホン。ラルー、ごめん。ちょっと離れてくれる?」
「え…なんで?」
「このままだと、俺、ラルーの身の保証ができなくなってしまう気がしてだね……。
そうすると、サルン伯爵や、クラス、フィーダそしてエルザさん達から確実に息の根止められて、更には1ミクロン単位になるまで八つ裂きにされた上、業火で焼かれてるっていうフルコースが待っててね…。
えっと、何が言いたいかというとだな、とりあえず、ラルーとの未来を誓ってすぐ、死にたくないから…。お願いだから、理性が保たれてるうちに、俺から離れて!!」
よくわからないけど、ベイルが半泣きで懇願するので、一歩ベイルから離れてみた。
「これでいい?」
「うーん。あと、半歩下がろうか。これはラルーの為でもあるんだ。」
「だって、さっきはベイルから近づいて抱きしめてきたのに、なんで私から近づくと離れてっていうのよ!おかしくない?」
「あ゛ーもー…。だから、好きな女に不意打ち掛けられると、嬉しすぎてギリギリ保ってた理性のタカが外れちゃうの!こっちの身にもなってくれよ…」
「あ……。ご、こめん。」
なに?!なに?なに?なにぃぃぃ!!!!
あたしに、こんな展開がまわってくるとは!?
すんごい、モッテモテの美女ならベイルのこの反応もわかるけど、平凡な顔の私なんかが、ベイルにこんな気持ちにさせるなんて…。今まで恋愛面では不幸が当たり前だったから、今のこの幸せが…幸せすぎて、猛烈にこわい。
ぎこちない時間が流れ、普段は、気にも止めない時計の秒針だけが大きく耳に響いてくる。
なんか、話さないと…この静けさ&気まずさで軽く昇天できそう。。。
「「あ、あの…」」
「チャンラーン!呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!ラルー。かわいい弟のフィーダがシャランの護衛から解放されて今、王宮からか帰ってきたよーん。」
「「∈▼▲◎∀κγΩ!´:ーー!!!!」」
「ん?何?ベイルもいたんだ」
空気読め!くそフィーダ!
つか、ノックぐらいしろよ!!心臓、軽く口から出かかったわ…。
「いや、ラルーの顔を見に来てね。シャランは、王宮に行ったんだ。」
「そ。明日のお前らの婚約発表のための仕度やらなんやらがあって、王宮から呼ばれたんだよ。」
素っ気ない口調でフィーダは、ベイルを睨みながら言った。
「そっか…。その事でフィーダに話があるんだが今、いいか?」
う!!べ、ベイル言うの?まだ、自分でも心の準備が…なんか、もう心臓が持たない。
「え?別にいいけど…つか、ラルー、どした?なんかお前、顔が紫色っぽくなってるけど、大丈夫か?」
「えぇぇぇ?別にふつーよ。ふ・つ・う!いつも通りの私じゃない。」
「お前、すんげー声が、上ずってるけど。なんなら普段より8オクターブぐらい上がって、もはや超音波級だぞ」
「なーに言ってるの。フィーダったら!おかしい子ねー。」
「ラルーお前、声高すぎて何言ってるかわからねーよ。モスキート音に限りなく近いぞ、既に」
「はぁー。はいはい…わかった。」
ため息と共にベイルがフィーダに近づいて言った。
「ちょっと、フィーダと二人で話そうか。このままここにいたら、ラルーの発する声で窓ガラスが全部割れそうだから。それで、いいだろ?ラルー。」
喉元まで心臓がせりあがっていたところに、ベイルの救いの手が現れ高速で頷く。
ベイル、マジ神…。
まっこと、すんません。けど、本当、神レベルで尊敬します。私、さっきのアレからの今で、とてもじゃないけど、うまくフィーダ相手に説明することなんてできない。
「よく、わからんけど。ラルーのこのモスキート音から離れられるんなら、今ならベイルにどこへもついてくわ。」
くそ、フィーダめ……。それに引き換え、ベイル、ごめん。けど、その気遣いも何もかも全部引っくるめて本当大好き!
「じゃあ、ラルー。フィーダと出ていくから。本当は、もう少しラルーと居たいけど時間があまり無いから、話が終わったらそのまま王宮に戻るよ。じゃあ、また明日王宮で」
「…うん。また…明日ね…」
おずおずと、ベイルの姿を見ると、いつも私に向けられていたベイルの優しい眼差しが、私を包み込み胸がベイルへの気持ちでいっぱいになった。
「へ?は?……なに?この桃色な感じのオーラは…。つか、俺の知らない所で何がどーなってんだ、お前ら?」
「いいから、こい!!フィーダ!」
しっかり、フィーダの首根っこをつかんで、半ば強引にフィーダを引っ張っりながら部屋を出ていった。
もちろん、その日の夕方には、ピンク色にほほを染めたフィーダが、目をキラキラさせながら乙女チックな表情を浮かべて小走りでやって来た。
「ラルー、ホントに……マジよかったねー。もーさー。超感動した。つーか、軽く二時間くらい泣いちゃったよー。」
と手を、振りつつ、ぴょんぴょん跳ねながら報告にきた。
つか、お前は女子か!?