摂政
10月30日。秋に咲くアスターの花を帽子や胸に付けた市民や兵士たちが荷車つきの自動車に乗ったり、行進してアスター革命を祝っていた。
カフェ「テレーゼ」でも兵士らがスイーツに舌づつみしていた。
「アスター革命って何なの?」
リアは市民と兵士に尋ねた。
「民主主義革命だよ。もう王政がなくなるから、でぶトカゲは永遠に王様になれないな!」
「あらら、マシロどうしましょう」
「冗談はよしこちゃんだぜぃ」
いつも女性客に見つめられるマシロは幸せそうに見えた。
11月にカーロイの連立内閣はエルトリアで王政を廃して共和国となった。
11月11日。ウィーンでは民衆が蜂起してシェーンブルン宮殿に向けて労働者が行進していた。
カール1世は帝位をおりる文書に乱暴に署名して、645年のハプスブルク王朝の幕を下ろしたのだ。
カール一家はスイスへ亡命した。
1919年カーロイ政権は国民が期待する土地改革法が1月に遅れて制定したせいか、1月と2月には各地で労働者と失業者の大規模デモが起きていた。
社会民主党と共産党の合同による政府が3月21日にエルトリア・ソビエト共和国となった。
「社会主義と企業と土地の国有化だって」
「土地を農民に配るのか? 広大なのまともに分配できるのかねぇ」
案の定、ソビエト政権は土地の分割も行わず、土地を求める農民の要求に応えず、西欧列強の支援を受けたチェコスロバキア軍とルーマニア軍が侵入してきた。
弱小のエルトリア赤軍が7月末のティサ川前線でルーマニア軍に敗れ、総崩れとなった。
8月1日にはソビエト政権が崩壊した。
8月4日にルーマニア軍がブダペシュトを占拠したが、青緑の王宮屋根の2頭の赤竜に怯え、王宮には入らなかった。
彼らはカフェ「テレーゼ」にたむろし、乱暴を働かないからリアは接客に務めた。
11月14日にルーマニア軍が撤退した。
16日にブダペシュトに二重君主国の海軍提督ホルティ・ミクローシュが、国民軍を率いて入城した。
サラマンダーマシロを窓に張り付かせたデオンは、白馬でさっそうと王宮に入るホルティを眺めた。
「海軍の紺の制服カッコイイぜぃ」
「あれならいいボスになるな」
紳士的なホルティにデオンは近寄った。
「あんたなら本館に住んでいいぜ」
「マシロだよ〜ん」
「その小さいのが旧王かね?」
ホルティはそれほど驚かず、鋭い眼光を向けた。
「こいつ今は訳あってこんな姿なんだ。マシロ、そろそろ人化してもいいんじゃないか」
「しょうがないなぁ」
マシロは人化した。白いスーツ姿が現代的だった。
「お前、いつそれに着替えたんだよ!」
デオンはマシロの腹を叩き続けた。
「クーシーにもらった」
橙色の髪の青年はあっさりと答えた。
「面白い若者たちだな。しかし困ったなぁ。国民軍は我らが王としてオーストリア大公のヨーゼフ・アウグスト公をエルトリア王にしたいのだが、旧王はあの竜たちの飼い主かね?」
ホルティは細い赤竜が太った赤竜に寄り添っているのを指した。
「いちおう、マシロの言うこと聞くよ」
マシロの足元に白狼が寄り添った。
「なるほど、少し考えさせてくれ」
ホルティ一行は本館へ入った。
マシロはサラマンダーに戻ってデオンの頭上を跳ねていた。
ヨーゼフ・アウグスト大公はハプスブルク家の者なため、協商国とルーマニアの了解が得られなかった。
マシロは旧王の復活で認めてくれた。
11月23日。ヨーゼフ・アウグスト大公は暫定的な王位を放棄した。
「ところで皆さんはエルトリアに王様がいたほうがいい?」
リアは客たちに尋ねた。
「やっぱり共和制より王がいた方がしっくりするな」
「マシロちゃんが王様なら認めるわ」
「政治は有能な奴にやらせたら、でぶトカゲを崇めてやるぜ」
常連客たちはマシロを支持した。
1920年1月に議会選挙が行われ、2月の国民投票を経て、共和制から立憲王制となった。
デオンはマシロを連れて、ホルティのいる本館の執務室へ来た。
「王様はマシロでいいよな?」
「各国が認めたから問題はない」
「マシロ政治いやだ」
マシロは尾を逆立てた。
「という訳であなたが摂政だ」
「私は一介の軍人にすぎない。王と国民に忠誠を誓うが、政治は門外漢だ」
「マシロは頭が弱いし、カリスマ性のある人が政治をやってまとめてくれたらいいんだよ」
デオンは優しく薦めた。
「そう言うとマシロが莫迦みたいじゃねーか!」
サラマンダー化したマシロはデオンの頭上で激しく跳ね続けた。
「痛い、痛い!」
デオンは偏頭痛のような痛みを感じた。
「そういう事なら仕方ないな」
ホルティが渋々受託した代わりにデオンは頭にコブが数ヵ所できていた




