青年
1906年4月初め。
「英国のメイド服ってすごくエモいよね!」
カフェの開店前、ルカが興奮して黒綿のサテンの服とスカートに、白い薄い生地のエプロンを渡した。
レースのエプロンは後ろまで全体を覆っていて、下の黒服が透けて見えるほど薄く、エレガントなひだ模様になっていた。
リアは幅広の肩ひもでエプロンを留め、ひもで後ろで☓にしてボタンを留めた。
黒服は袖口が白で腕周りがだぶついていた。
「やっぱりリアはこういうの合う!」
尾を大きく振り上げたルカが大喜びした。
「際ですか……」
この頃になると没落した中小貴族出身者の市民や、貴族に憧れた中産階級の市民たちがカフェに訪れていた。
また女性が自由にカフェに出入りするようにもなったのだ。
休日にはルカから緑色のリネンのスーツ、細いズボンと白シャツが渡された。
「デオンがますますカッコよくなる服、新調したから着て」
言われるまま着込むとキリルとユーリも青色のスーツセットだった。
ペシュト側のデパートを目的もなくマシロ一家と彷徨いていた。
一家は飽きると市電に乗って、菓子店「ジェルボー」の大型店舗でバタークリームケーキを買った。
腹が減ったら市の森公園隣のレストラン・グンデルでグルメに溺れた。
夜になれば街道に電灯がついた。
「マシロはウィーンをうろうろしたいぜぃ」
「お前は私の頭に乗るだけだろうに……」
5月ころに白狼の頭上のマシロとデオンはウィーンへ出掛けた。ウィーンも市電が通るようになってエルトリアと変わらず、オペラハウス、美術館、国会議事堂が建ち並んでいた。
だか旧市街を環状に囲む大型建物群はウィーンらしく壮観であった。
狭い路地の教会の前でスケッチをしている青年がいた。
「なぁ、マシロを描いてくれ〜」
利発そうな青年は狼の頭にから声がしたのだからひどく驚いた。
「こんなでぶトカゲより、私を描いてくれよ」
デオンは艶めかしいポーズをとってみた。
「何なんですかあなたは?」
「マシロは通りすがりのプリチーなトカゲだぜぃ」
マシロは白狼の頭上で立ち上がった。
「犬なら描きますよ」
若者は白狼を素描した。出来上がるとマシロが怒った。
「マシロがいないじゃないかー。ぷんぷん!」
「変なトカゲより私をモデルにしたらどうだ」
デオンは迫った。
「人物画は苦手なのでいいです」
青年に断られた。
「画家を目指しているなら、人物画くらい描けないとだめだぞ」
「すみません。急用があるので」
青年は逃げ出した。
「お前みたいなきれいどころも描かないとは、駄目な奴だぜぃ」
マシロはため息をついてから眠った。
夕方、街角で人だかりができていて誰かが街頭演説をしていた。
「1神、1皇帝、1民族」
髭面の男はドイツ民族の優位性を説いてから最後にこう締めた。
群衆は拍手をして歓声をあげている。
「ああいう乱暴な政治演説ができるようになったんだから、ウィーンは自由になったものだ」
デオンはウィーン革命時の素朴な演説を想起した。
デオンは麒麟を呼んで白狼を連れてエルトリアへ帰った。
青年は1907年7月、110数名受験応募者と共に、ウィーン市シラー広場の美術アカデミーで試験を受けた。
実技の第1次では受かり、課題の第2次試験で青年は持参した作品を提出したが、肖像画と静物画が少なすぎたため、審査員から合格点を得られなかった。
同時期にエゴン・シーレがアカデミーを合格して16歳で入学していたが、グスタフ・クリムトの弟子になってからは1909年にアカデミーを退学した。
シーレは1918年にスペイン風邪で死亡した。
後に建築学の勉強のためウィーンに来た19歳の青年は、ホーフブルク博物館のハプスブルク家宝物館で、ガラス張りの陳列棚の古い槍の穂先を凝視していた。
プロットが尽きたから休みます
PS4で作業したり戦争映画みたり再開はかなり後




