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新生デオンの暇仕事  作者: kazfel
ハプスブルクの黄昏
91/185

私はカモメ

 1898年秋。カプツィーナ教会の地下にデオンとサラマンダーマシロは訪れた。

「テレーゼ見たいぜぃ」

 デオンはひどく短い脚をバタつかせるマシロを掴み、ひときわ大きな棺へ向かった。

 夫妻の彫像とトランペットを吹いている天使、大砲装備の棺に寄った。薄暗い霊廟でもマシロがほのかに光る様で棺の装飾が眺められた。

「ヨーゼフ2世に降ろして〜」

 夫妻棺の下の地味な棺へマシロを置いた。

「『良き意志を持ちながら、何事も果たさざる人』結構、刺さるなぁ」

 デオンはしんみりして墓碑銘(ぼひめい)を読んだ。

「次、ゾフィーな」

 ゾフィーの棺はライヒシュタットとマクシミリアンの間にあった。

 デオンはマシロを置いてライヒシュタットへ寄った。

「次は……」

「分かった! ええっと、どの辺りだ?」



 9月10日、スイスのレマン湖畔で、喪服と黒いパラソルに扇子で顔を隠したエリザベートは、蒸気船のドラで早足になった。

 体が重く気だるさもあるシシィは、人の気配を感じた。若者にぶつかられ、シシィは仰向けに倒れたが、すぐに起きあがり、男は乗客に取り押さえられた。

「ホテルへお戻りください」

 ホテルのドアマンが叫んだ。

「先に急ぐので」

 シシィは断わった。

「いったいあの男はどうしたかったのでしょう」

 シシィはスターライ夫人に尋ねた。

「ドアマンですか?」

「いいえ、もうひとりの男です」

「分かりません。でもきっと札付きの悪党ですね」

「時計でも取ろうとしたのかしら」

 シシィは船に乗り込み、岸を離れたところで倒れ込んだ。

 逮捕された若者は無政府主義者ルイジ・ルッケーニで「貴族なら誰でも良かった」と供述した。

 

 船にいた看護婦が新鮮な空気にふれた方がいいと、シシィを階上のデッキに運んで、水とアルコールに浸した砂糖を口に入れた。

 シシィはゆっくり目を開き、笑みを浮かた。

「何かあったの?」

 それがエリザベートの最後の言葉だった。

 後でスターライ夫人が衣裳を開いてみると胸に小さな傷口があった。ホテルで介抱して心臓の致命傷でシシィは苦しみことなく息を引き取った。60歳だった。

 犯人は「働く者だけが食ってよいのだ」と繰り返していた。


 

 デオンはマシロをエリザベートの棺に置いた。

隣にルドルフのがある。

「さすらいの旅の中で逝ったのか。これが彼女の本望なら尊大な死だな」

 デオンとマシロはいつまでも霊廟で過ごした。

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