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新生デオンの暇仕事  作者: kazfel
ハプスブルクの黄昏
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マデイラ島へ行こう

 10月にシシィは咳と原因不明の熱が出て、侍医のスコダが診断して厳しい口調で返した。

「このままでは命の危険さえあります。ただちに気候の温暖な土地で療養するべきです。皇妃様のこの体ではウィーンの冬は越せません」

 シシィたちは皇帝たちに打ち明けた。

「病気療養のために旅に出たいのです」

「ならイタリアの……」

「そうだ。マデイラ島にします。できるだけ遠くへ行きたい」

 皇帝が言いかけたときにシシィが口をはさんだ。

「マデイラって、どこだ?」

 マシロサラマンダーが尋ねた。

「大西洋の島よ。美しい景色らしいからそこにするわ。マシロたちもどう?」

「うわーい! マシロ行くぅ〜」

「私も行く!」

 デオンも威勢よく答えた。

「ちよっと、あなたたちは残ってちょうだい」

「嫌だい。マシロも行くう〜」

「私も島で遊びたい!」

 デオンたちはゾフィーから離れて自室で荷物の支度をした。


 後にシシィはゾフィーの腹心の女官長エステルハージ伯爵夫人をウィーンに置きたいと主張した。

「まぁ、私は後で陛下とのんびり過ごせるので別にいいですよ。どうか好きになさいませ」

 ゾフィー大公妃はあっさりとシシィの意見を受け入れた。


 11月初旬、皇妃が重病にかかっているニュースが国外にも流れた。

 マデイラ島行きの船がなかったから、英国のヴィクトリア女王から自家用の帆船を貸してくれた。

 シシィ一行はミュンヘンを出てバンベルクに寄った。

 シシィはフランツ・ヨーゼフに見送ってもらいながらマインツへ行き、そこで英国王室の帆船ヴィクトリア・アンド・アルバート号に乗り込んだ。

 荷物運びと従僕たちがオズボーン号で続いた。

 デオンたちは帆船に乗り、マシロは「わーい、海だぜぃ」とデオン頭上で跳ね続けた。

「こら落ち着け、でぶトカゲ」

 甲板に出たシシィはデオンの麒麟を眺めていた。

「体はシカで馬のたてがみ、一本角が神秘的なのね」

 波が荒くなり船が揺れていた。

 飛び交うカモメと跳ねる魚に反応してシシィは大喜びではしゃいでいた。

「嵐が来ます。早く中へ!」

 船員は船内へ誘導した。

 ビスケー湾あたりで大嵐で船が大きく揺れ続いた。体をよろけたデオン頭上からマシロは床に落ちた。

「わーい! 揺れてるう。揺れてるう」

 マシロは床で転がっていた。

「こら、転がり過ぎだ」

 デオンはでぶトカゲを回収した。

「きゃはは、マシロちゃん貸して」

 珍しく快活なシシィにデオンはマシロを渡した。

「そーれ!」

 掛け声と共にシシィはマシロを転がした。

「行くぜぃ!」

 でぶトカゲは勢いよく転がり、デオンは「何なんだ一体……」と回収する。

「また貸して」

 満面の笑みでシシィは要求した。

「ど、どうぞ……」

 引きつったデオンはマシロを渡し、シシィは笑いながら放り出した。

 デオンは駆け込みマシロを拾う。

「マシロちゃん、転がりたい?」

「行けるぜぃ!」

 シシィは両手でマシロを掴み、転がしてデオンはあと数10回、皇妃の気まぐれに付き合う羽目となった。

 普通の乗組員が船酔いで苦しむ中、シシィは平気でマシロとたわむれている。


 島に着けば晴天でシシィ一行は水兵シャツと水兵帽に着替えた。デオンは緑のフロックコートを脱いで白のブラウスで過ごした。

 亜熱帯植物に囲まれた温暖な島は、花が咲き乱れてシシィは余計にはしゃぎ回った。

 海を見下ろす別荘に居を構えている間、シシィは咳もなく快活に食事をした。


 島には月桂樹やマホガニー、シダ、照葉樹林とサボテンにも花々が咲いていた。

「何か果物ないかな」

 デオンは樹林へ進んだが、木に飛び移ったマシロが長い尾と明るい茶色の猿が現れ、マシロを右手で奪い取った。

「こらーっ!」

 白い頭髪の猿が木を渡っている間、ついて来た白狼が体当たりしてマシロを救った。

 バナナを抱えたデオンが戻るとシシィはオウムを餌付けしていた。


 シシィの日常は女官たちとトランプゲームで興じたり、マンドリンを弾いたり、犬と猿にオウムと戯れていた。

 時には読書と伊達男からエルトリア語を学んでいた。

 美しい女官とは特に仲が良かった。


 デオンたちは海水浴やカニを捕まえたり、また樹林を探索した。

 マシロが木を登っている間、オウムの群れがやって来て、マシロの背をつつきあった。

「うげぇ!」

 白狼がオウムたちを追い払った。

「もう、帰るぜぃ」

 マシロの背中の傷が痛々しかった。

「マシロは傷の治りが遅いのか?」

「お前ほど、早くないぜぃ」

 デオンはマシロの寸胴のような背中に包帯を巻いた。白狼の頭にマシロを置いて帰り支度を始めた。

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