カフェ「テレーゼ」へようこそ!
1851年8月。ウィーンはもとのように馬車や人通りもにぎやかで復興が進んでいた。
王宮内のフランツ・ヨーゼフは聡明な貴公子になっていた。彼の執務室にデオンらは乗り込んだ。
「マシロ、デオン殿、母さんが会いたがっていたぞ」
白軍服の皇帝はどうしてすぐに来なかったのかと、尋ねた。
「私はただエルトリアに居たかっただけだ。よくも、オーストリアとロシア軍を店に呼び寄せたな。このド畜生めが!」
デオンが怒鳴り散らした。
「何がヨーゼフだ! 改革王のヨーゼフなめんな! 1000グルデンだ。クソ兵士の飲み食い代払いやがれぃ!」
デオン頭上のサラマンダーマシロも騒いだ。
「そんなのすぐに払えないよ」
皇帝は弱り目になって、すくんだ。
「なら月に100グルデン払え! それで勘弁してやる!」
叫んだデオンは証書を出した。
「なら冬の間だけ、王宮に居なさい」
ゾフィー大公妃が入って来た。
「月に400、2000グルデンを払いますわ。あなた方がいなくて退屈していたのよねぇ」
「じゃあ、そうするぅ〜」
マシロが了承してしまった。
「多くもらえるなら、従うか……」
10月初めにデオンらは王宮へ行くとメッテルニヒがいた。
「メッたん、戻ってたの?」
マシロが聞いた。
「ええ、9月23日から来ていましたよ。大公妃があなた方を呼び寄せたと言うので来ました。マシロ殿は相変わらず太ったトカゲで、デオン殿は美青年のままなのですね。ウィーン会議のままとは……」
腰が曲がったメッテルニヒは目をうるませていた。
前より、さらに老い貫禄さが失われていた。彼を断罪する気がデオンには起きなかった。責めるのはやめよう。
「あなた方が普通に歳をとっただけだ。私は妖精たちに使える騎士だから若い姿のままなのさ」
「もう王宮通いは最後にします。あんな荒事を進める皇帝たちとは、相入れません」
「今、私たちのカフェへ来ないか? 後で送るからさぁ」
「おごりなら、喜んで」
巨大化した白狼にメッテルニヒを乗せてブダへ飛び、デオンは先にカフェの裏口から入った。
マシロも入り、合図のため、メッテルニヒを呼んだ。
「あなたは、もしや……!」
リアは席を案内したメッテルニヒが、落涙したのに気付いた。
「舞踏会のあなたが懐かしく思います。もう2度とお会いすることはないと思いましたよ」
「ただの気まぐれですよ。好きに頼んでください」
「これは、ザッハートルテもどきのケーキですかな?」
メッテルニヒは客のチョコレート・タルトを指した。
フランツ・ザッハーはメッテルニヒ家に仕えていた料理人で16歳の頃にザッハートルテを披露した。
「それを真似たものだ。本人にはチクるなよ」
リアは微笑んで、ささやいた。
「了承しました」
笑顔のメッテルニヒはチョコレート・タルトとマシロのコーヒーを頼んだ。
第1部完
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