不穏
第13章 遠くから来て遠くへ去る
11月1日。
「皇帝に悪口を吐き出すウィーン市民でいっぱいだって」
「やっぱり、革命軍は負けちゃったの?」
リアが新聞を読んでいる客に尋ねた。
「ああ、10月31日にメッセんハウザーたちが処刑されて、いたよ。惨敗だよ」
「死者が2000人とか。3月革命の成果がすべて失われたよ」
「しかし、我らもそんな皇帝軍に楯突いたのだ。どんなしっぺ返しがくるのだろうか」
(ここも安全ではないのか……)
閉店時間にデオンは姉たちに説いた。
「ここも無事では居られなくなる。そうだ! 日持ちするデザートを作り置きしてくれないか。なるべくたくさんだ」
「じゃあ、グーゲルフプフを作るわ」
カムナギが提案してルカも「それがいい!」って喜んだ。
鉢型の独特なケーキ型クグロフで焼かれたケーキで、日曜日の朝食やカフェスイーツに欠かせないものだ。
12月2日。モラヴィアの地方都市オルミュッツの大司教の館で即位式が行われた。
12月4日。
「18歳の新皇帝はフランツ・ヨーゼフかぁ。こっちに断りなしに即位式で、こんな奴エルトリアの皇帝じゃないぜ!」
「皇帝? フランツィが? ずいぶん早くの即位なのねぇ」
「リアちゃん親しげたけど、知り合いなのかい?」
「フランツィは幼いころの知り合いよ。舞踏会でお見かけしたときは凛々しいお姿でした。今後ともご令嬢たちが放っておけないでしょうね」
「ダメだよ、リアちゃんあんなの狙っちゃ〜」
「私はマシロの子供を狙うから大丈夫」
リアはカウンター席の二人に目配せした。
12月4日。皇帝の顧問フェリックス・シュヴァルツェンベルク侯と女帝ゾフィー大公妃はコッシュート革命軍討伐を論じていた。
「勝手に帰ったマシロの国へ攻め込むのです」
「はっ、コッシュート軍を殲滅させましょう陛下」
「判った。グレーツ侯をエルトリアへ派遣せよ」
フランツ・ヨーゼフは両者に従ってヴィンディッシュ・グレーツ将軍の軍をエルトリア派遣を命じた。
12月16日、オーストリア軍はブダとペシュトをあっさりと制圧した。コッシュートはエルトリア政府の閣僚らと一緒にエルトリア東部のデブレッチェンまで逃亡した。
12月17日。
カフェ「テレーゼ」には皇帝軍の兵士でいっぱいだった。
「とびっきりの美人さんが、こんなカフェにもったいない」
リアは兵士たちにグーゲルフプフを配っている間、尻を触られた。
「……コーヒーお持ちしますね」
リアはひたすら兵士たちにコーヒーを配った。
「何か別の菓子くれよ」
「はい」
リアは兵士に暴れられないよう、要求に従った。
「チョコレート・タルトとか別のスイーツ頼む」
リアは調理場でルカとカムナギに要請した。
後にチョコレート・タルトとミルヒラーム・シュトゥリューデルを渡した。
「こんなかわいいのが、コーヒー入れるのかぁ……」
マシロを眺めている兵士もいた。
リアは兵士たちに飲み食いさせてブダの駐屯地へ引き上げさせた。
「何とか追払えましたね」
ユーリはリアにコーヒーを入れた。
「とっとと、国へ引き上げてくれたらいいけど……」
18日もオーストリア軍兵士がカフェに押しかけて来た。
「お代を頂けるならかまいませんが」
リアは代金を要求した。
「ちょっと持ち合わせがないな。体でならいくらでも払うぞ」
兵士はリアに体を密着した。
「我々は商売でやっているのでお代が払えないと困ります」
ユーリが間に割った。
「尻尾野郎に払う金はない! テーブル壊していいのか」
「じゃあ、今日だけですよ。明日は休みますから」
キリルが兵士にコーヒーをあげた。
「こんな店のドア簡単に壊せるぜ」
リアは体を触り続けた兵士には、少し腐って砂糖でごまかしたグーゲルフプフを渡した。
夕方になって兵士らは店を出て行った。
「やっと終わった……」
リアは少しふらついた。
「でも壊されてもノームで直すから大丈夫ですよ」
「何?」
ユーリが嬉しそうに尾を振り、リアは倒れ込んだ。
19日、カフェ「テレーゼ」は分厚い土壁に囲まれていた。
「町中を荒せ」
兵士らが周辺の家々へ入ろうとすると金クマと茶色パンダ、狼たちに阻止された。
1849年4月14日、コッシュートに率いられたエルトリア政府はデフレツェン独立宣言した。
反撃したエルトリア軍は4月にペシュトを、5月21日にブダを奪還した。
カフェ「テレーゼ」の土壁が外れて、守護聖獣のパトロールが解けだした。




