10月革命
10月6日。苦戦中のイェラチッチを援助するため軍事大臣ラトゥールが出したエルトリアへの出陣命令を近衛兵が拒否した。
同調した革命的国民軍は北のターボア橋で線路を外して輸送を止め、帝国軍と橋を挟んでの銃撃戦となった。
勝利した近衛兵と革命軍は鹵獲した3台の大砲を持って市内に入った。シュテファン教会前で再度軍隊と戦い、民衆は皇帝の武器庫を襲い、3万挺の銃器を略奪して労働者にも武器が渡された。
軍事大臣ラトゥールは陸軍省に大挙して攻め込んだ民衆に殺された。
「こんなあくどい奴は吊し首だ」
ラツールは陸軍省前のアム・ホーフ広場の街灯に吊るされた。群衆に混ざったデオンらは眺めた。
「フランス革命では貴族が吊るされていたぜぃ」
「これは本格的に始まったってとこか」
シャツだけだと寒いのでデオンはマシロサラマンダーを首元に引っつかせていた。
宮廷はポーランド国境に近い、ウィーンから150キロのモラヴィア古都オルミュッツへ避難した。
10月14日皇帝はオルミュッツからウィーン市民に布告を出した。
ウィーンは自由を守るという口実の下に、謀反の旗を立て、無秩序と内乱の支配する街となった。
そのためヴィンディッシュ・グレーツ元帥に全権を秩序回復のための軍を派遣する。
ボヘミア方向からはグレーツ将軍指揮下の9万の軍が南下し、南東からイェラチッチ将軍のクロアチア軍2万5000が集結、総勢11万5000の武装した正規軍がウィーンを包囲した。
エルトリアからの援軍はオーストリア国境のシュヴェヒャートのクロアチア軍によって足止めされていた。
10月7日、ウィーンから金持ち市民が逃げ出し、市委員会が招集された。市の行政は急進的革命派がしていた。
内わけとして、立憲議会の急進民主派の議員、市外区の小市民派の国民軍、アカデミー軍の学生、民主主義協会に加わった知識人たちと労働者たちだ。
武装した彼らはウィーン防衛にあたった。
司令官には、国民軍司令官で文筆家のメッセんハウザーで、労働者部隊はポーランド人革命家ヨーゼフ・ベムが率いた。
10月22日、大軍を前に市民が怯えた。
「皇帝軍を倒して共和政を続けよう!」
「皇帝軍を倒せ!」
労働者は叫び、先がけて皇帝軍と戦った。
皇帝軍は260門の大砲を並べて砲撃を始めた。
10月28日。レオポルトシュタット広場「プラーターの星」に最大のバリケードが築かれていた。砲撃で多くの家々が燃え、バリケードは耐えていた。
サラマンダーマシロがシャツの首元でよだれを垂らして寝ている中、デオンは上空から麒麟の炎玉で皇帝軍を焼き尽くし、市内へ降りた。
市内は血みどろの白兵戦となっていた。
防衛軍はバスタイ(城塞)に籠もり、デオンは銃剣と槍で勇敢に戦っている女性部隊に加わった。
「赤い敵を引きつけるから、少し下がれ」
迫りくる赤帽、赤マントで二丁拳銃のクロアチア軍の両腕を、デオンは斬り落とした。
一方のクロアチア兵の腕を落とすと、横からの兵の短銃でデオンは胸を撃たれた。
背中から倒れ、空を仰いだ。
「やっと奪えたぞ。我が身体!」
起き上がった彼は両手を下に付けて、シカ鳥と黒い獣を召喚した。鳥は防衛軍を、黒狼は皇帝軍へ襲いかかった。
(いまさら来るんじゃない! この身体は私のだ)
デオンは剣を握りしめた。
「元は我のものだ。この新参者め!」
(怪しい術師に渡せるか!)
デオンは脇腹に剣を刺した。
脚が踏み込めたので、魂はどこかへ飛んだ。労働者の頭と背中を蹴り続けていたシカ鳥を、真っ2つに斬った。
脇腹の痛みを忘れ、黒狼を追った。
「くらえ!」
人を噛み殺している獣の後ろから、デオンは両脚を斬り落とした。背中をひと刺しして、首を斬り落とす。
「何だ、コイツは!」
デオンは皇帝兵3人に銃剣で胸を突き刺され、再び倒れ込んだ。
後からわいて出た皇帝軍はバスタイへ向かい、革命軍は白旗をあげた。
胸の痛みを感じながらも半身を起こしたデオンは後方を振り向いた。白旗がはためき、「負けたのか」とつぶやいた。
敵の数が圧倒的に多く、上空からも皇帝軍よりも防衛側の死体が多数散らばっていた。
「あ〜良く寝たぜぃ。何だ、もう帰るのか?」
デオンのシャツ首元にへばり付いたマシロが目覚めた。
「もうウィーンはいいから、エルトリアでのんびり暮らすよ」
麒麟と白狼が南東のブダ王宮へ降りると、ルカが迎えた。
「デオン、そのシャツ血まみれじゃない! どうしたの?」
ルカはデオンの破れたシャツを凝視していた。
「銃剣で刺されたが、傷がもう治っている」
デオンはシャツを脱ぎ捨て胸元と脇腹に触れた。
「ウィーンで確実に入手して価値あるものは奇妙な身体か。それもまた良し」
デオンはルカに笑みを浮かべ、ルカも微笑んだ。
10月29日、デオンは入浴中にマシロの子供たちから胸元や腹を見つめられていた。
「切られてもすぐ治るなんてすごーい」
カムナギが無邪気に褒めた。
「もう危ないことはしないでね。家で働いたほうが幸せだよ」
キリルはデオンの頭を優しく撫でていた。
「スイーツ作ってあげるから離れないでね」
ルカがデオンの右腕を、カムナギがデオンの左腕を組んだ。
「もちろん。皆に大事にされているところなんてそうそうないさ」
心から暖かくなる場所こそ死守したくなってきた。




