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新生デオンの暇仕事  作者: kazfel
喜べ喜べ自らが陽光に満ちた大空を駈けるように
51/185

3月革命

 参考文献

図説ウィーンの歴史 増谷英樹

ビラの中の革命 ウィーン・1848年

 3月6日。ゾフィーとフランツ・カールは議会職員の会合に出て一人の工場主が請願書を手渡した。

「どうか皇帝に必ずお渡しください。何やら破壊的な様子がパリから伝わって伝わってきています。皇室も政府もくれぐれも気をつけてください」

「皇室の名においてご提言を心から感謝します。忠誠なる皆様の中にこうして共にいることは何という喜びでありましょう」

 フランツ・カール大公は請願書を皇帝に渡すと約束した。

 3月12日には皇帝は請願書を受け取った。

 13日、朝から人々が集まり、市民は議会前に何事かと群衆を眺めた。

 仲間の肩車に乗った、あごひげを生やした端正な顔立ちの男が、出版の自由など自由主義的な演説を始めた。

「検閲をやめて自由な新聞をつくるべきである。憲法を制定せよ。議会を開くとともに、帝国内の各民族の関係をよくせよ」

 ぼつとつとした口調だが、群がった民衆は政治演説を興奮してささやいた。

「あの勇気なる者は誰だ?」

「ダモクレスのような警察の白刃が、私の頭上に吊るされ揺れている。だが私はいおう。私の名はフィッシャー・ホーフというのである」

 周りは初めての政治演説で盛り上がり、人々はさらに集まってきた。

「メッテルニヒは退陣せよ」

 フイッシャーホーフの演説で歓声が湧き上がり、エルトリアのコッシュート議員の演説を学生が読み上げ、請願デモは勢いをついた。

 午前11時ごろ馬に乗った司令官がやって来て、人々が木片をぶつけた。

 同じごろ、ゾフィー大公妃とフランツ・カール大公は城壁の道を散歩していた。人々が請願に向かう道で市民たちの万歳の歓呼に夫妻は手を振っていた。


 集会の中に軍が発砲し、3人が亡くなった。

「バリケードを築け」

 人々は叫び、市内に散っていた。昼には学生たちが首相官邸の前に集合していた。

「メッテルニヒは退陣しろ」

「出版の自由を!」

「検閲の廃止を!」

「独裁者から皇帝を解放せよ」

「皇帝を我々に返せ」

「ライヒシュタット公殺しをやっつけろ!」


 市井の女性と労働者たちは工具と棒切れで武装して学生たちを支援し、軍隊に石を投げた。

 駆けつけた重騎兵隊が労働者を襲う刹那、上空から麒麟が吐いた炎玉が飛び、馬ごと燃やした。

 青いコート着のデオンは麒麟から降りた。

「妖精騎士か、貴公と勝負したかったぞ」

 一人の重騎兵も馬から降りた。

「一騎打ちなら受けてたつぞ!」

 槍や銃剣持ちを相手するよりいいと、帯剣を抜いた。

 重騎兵と火花を散らすほど激しく剣を受け流し、デオンは重騎兵のサーベルを折った。

「ここで遊んでいる場合じゃなかった」

 デオンは麒麟に乗って飛翔した。


 メッテルニヒとルードウィヒ大公、グレーツ元帥らは「今なら大砲で暴徒を抑えられる」と陸相ラツールに軍の総動員を命令するようせまった。

「フランスみたいに市民や労働者は共和制を求めておかしくなります」

 陸相は拒否した。

 王宮のかたわらのミヒャエル広場に大砲2門があったが、群衆に発砲命令が出されても砲手長は無視した。


 夕方から夜にかけて労働者たちは工兵の兵舎やエルトリアの名門貴族エステルハーツィ公の館を襲った。

 修道院と教会の前では、奇声をあげて口笛を吹いた。

 労働者の恨みを受けていたのは、はるかに小さなパンを売りつけるパン屋と、秤をごまかしたり混ぜ物を入れたりする肉屋だ。彼らは襲撃され、略奪の目にあった。

 日用品の高騰を招いたリーニエ(外柵)の消費税徴収所も労働者たちが襲った。

 門を打ち壊して事務所には火をつけた。さらに一行は自分たちを解雇したり、安い賃金で搾取していた工場を襲った。

 特に彼らから仕事を奪った新型の機械が打ち壊された。

 いくつのも工場には火柱があがった。


 デオンは王宮から近いメッテルニヒの豪勢な私邸に来てベルを鳴らした。

「市内では市民が暴れてここを襲うかも知れない! 家令たちは即刻退去せよ」

「もしかして革命が起きたのですか?」

「今、工場が襲われている。ここも危ない」

「大変だ!」

 後に使用人と召使いたちが屋敷を出て行った。

 デオンは食堂へ進み、いくつかの銀食器を見つけたバッグに入れた。

 次にメッテルニヒの書斎にこもり始めた。


 王宮の窓辺から城壁の彼方に火柱が何本も高く燃え盛っている。王家の人々は恐れおののいた。

 請願デモの学生と市民は郊外の何本もの火柱を見て、労働者の大群を怖がってしまった。

 会議場に杖をついたメッテルニヒが来た。

 王室と政権首脳会議が始まった。

「暴徒に対して今日強硬な態度をとるべきです」

 皇族たちはそう述べた。

「軍隊の大規模投入で暴徒たちをひねりつぶしてやりますぞ」

 ヴィンディッシュ・グレーツ元帥が提案した。

「これ以上の流血は望みませんわ」

 皇妃マリア・アンナが反対した。

「もう少し寛容になれないのかしら。血まみれの道なんて嫌ですわ」

「そうだそうだ」

 ゾフィー大公妃と抱いていたマシロがはやしたてた。

「事態を沈めるために市民や学生が強く求めている。メッテルニヒ宰相の退陣を実現する以外にない。宰相が退陣すれば、これ以上の流血はなくなる」

 市民が口に出した。ゾフィーが連れて来た者だった。

「この国の治安回復の責任を持っているのは私である。しかし私は、私の名誉と地位を喜んで皇帝の足下に投げ捨てるでありましょう。新しい政府と帝国の将来に幸あれ」

 メッテルニヒは皇帝に辞任を申し出た。

「分かった。そうしょう」

 愚かな善良なるフェルディナント皇帝は宰相の辞任を認めた。


 デオンはゲーテやシラーの本を読み進めているうちに人々の足音が聞こえ、ドアが開かれた。

「あれ? デオンさん居たんだ」

「よぉ、ここは私が占領したぞ」

 労働者は唖然としてドアを閉めた。

 一通り本を物色したデオンは目ぼしい本をバッグに詰めて外に出た。

 上空からでも市外地からの火柱の勢いが目立っていた。

 これも彼らなりの革命なのだろう。

 王宮のバルコニーでは市民が出て「メッテルニヒが辞任したぞ!」と叫び続けていた。王宮の周りとミヒャエル広場に集まった群衆は狂喜していた。

「メッたん、帰る家がない。残念……」

 デオンは市民の群れでにやけてきた。デオンはマシロと合流した。


 メッテルニヒの私邸は次々と暴徒が入り、物が略奪され、家は占拠されていた。

「まるでフランス革命ではないか」

 亡命を決意したメッテルニヒは皇帝に資金を無心したが、断られた。


 メッテルニヒは皇妃マリア・アンナに王室の将来について助言した。

「この際はフェルディナント皇帝も退陣するべきでありましょう。後継者はフランツ・カール公ではなく、若いフランツ・ヨーゼフ皇子が指名されるべきです。皇子は若いが、見どころがあります。皇帝が代われば、帝国全体の空気も一新されることになりましょう。私はこれで去りますが、心から帝国の繁栄を願っております。色々とお世話になりました」

 

 3月14日、貸し馬車でメッテルニヒと家族は寒い夜の中、ウィーンを去った。

 皇帝はすぐに検閲の廃止、言論の自由、国民軍の創設に関する書類に署名した。

 15日に憲法、憲法制定議会を招集することを約束した。

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