素晴らしい役者
1831年1月末。メッテルニヒ宰相はデオンらを英国大使館パーティション誘った。
メッテルニヒの周りに人々が群がっていた。
ライヒシュタット公爵が来ていた。
「まぁ、公爵様がお越しになったの?」
「あら、珍しい!」
貴婦人たちは一斉に公爵に振り向いた。外交官や政治家たちも、夫人たちの視線の先へ注目し、公爵を囲んだ。
色白で高身長、ブロンドの髪で美しい手の貴公子に会場は沈黙した。誰もが社交界でのライヒシュタット公に勝手に近づけられなかった。
言葉をかけられて初めて、挨拶ができるのだ。
緊張していた公爵は2人の友人の推薦でナポレオンの部下だったマルモン元帥に話しかけた。
公爵は紹介のあと涙ぐむ元帥に教えを乞うた。
「あのぅ、週に2、3回、当時の生きた歴史、経験談を話してくれませんか」
「やっぱり公爵は凄い人気だなぁ。私なんか太刀打ちできないや」
メッテルニヒの隣りにいたデオンは肩をすくめた。
「おめーなんかチビなんて、相手になるわけねーだろ」
デオン頭上のサラマンダーマシロが跳ねた。
「私も結構あせっていますよ。それだけ公爵の影響力が凄いのです」
「あのう、宰相、私はマルモン元帥です。公爵にナポレオン戦争の講義を週2回ほどしたいのですが」
初老将軍がメッテルニヒに頼み込んだ。
「あー、いいですとも。マルモン元帥ほど、ナポレオン戦争の話を適任者は他にいません」
マルモン元帥は目を丸くして驚愕した。
「あと貴方にお願いがあるのですが、ナポレオン2世には、親父さんの素晴らしい能力と、魅力ある人柄のことだけでなく、その野心、誇り、幻想などを教えて、それが結局、身の破滅、国家の崩壊をもたらしたことを、よく説明してやってください」
メッテルニヒはマルモン元帥の方を向いて頼んだ。
「分かりました。お任せください」
マルモン元帥とライヒシュタット公は広間の中央辺りへ移動した。
「素晴らしい役者だなぁ」
メッテルニヒはライヒシュタット公爵を見つめて感嘆していた。
「なんか、妙に褒めてんな」
マシロが口をはさんだ。
1m90cmの20歳の美幌貴公子は、教養も高くハプスブルク家の中で1番の注目の的だった。
だが、公爵は何度も咳き込んでいた。
1月28日から2ヶ月間、ライヒシュタット公とマルモン元帥の談義が続いた。
またライヒシュタット公は意中の伯爵令嬢とパーティで会い、何度か宮廷を抜け出して彼女と会っていた。
デオンは宮廷内でフェンシングの訓練を公爵とするのが日課となっていた。
「もう帰ります」
前より痩せて息が荒くなっていたライヒシュタット公とは1試合しかできなかった。
「すぐ疲れるから具合が悪いのか?」
「時々咳が出るのです」
デオンは「お大事に」と彼を見送った。
「あんなにデカイのに、あいつヒョロがりなんだぜぃ。デオンはチビだけど、身体は頑丈だったんだろ?」
白狼頭上のマシロが尋ねた。
「まぁね。前の身体では天然痘も治ったし、ってチビは余計だ!」
悔しいかな身長だけは伸ばす手がない。
地位と若さと身長の公爵がうらやましく感じていたデオンであった。




