ライヒシュタット公爵との学習
1826年4月中旬、フランツ帝は病気で危篤になった。ホーフブルク王宮周りに多くの市民が集まって祈りを捧げた。
市民たちは泣いていた。
皇帝は後に息をふきかえした。デオンたちはカフェへ行く前に広場の市民に「皇帝は生き返ったぞ」と伝えると市民らは泣き出した。
デオンはカフェの客にフランツ帝の容態を伝えると店内の一同は号泣した。
「何なんだ。コイツらはよぉ」
マシロは呆れていた。
「いい忠誠心だ。この国は安泰だ」
オーストリア市民には王政打倒の革命が起こりようもなかった。
体調が回復したフランツ帝はライヒシュタット公を連れて馬車で市民に顔見せした。市民の心配をねぎらう形で皇帝はウィーン市内をじっくり廻って行った。
この年は3年ぶりにマリア・ルイーゼがパルマを発っていた。
5月末にはドナウ河畔の皇帝の別荘に着くというのでデオンらはエルトリアへ帰った。
10月にウィーンへ戻るとライヒシュタット公爵にデオンは頼まれた。
「お願いです。フランス語を教えてください」
「ああ、いいぞ」
公爵の自室で語学の学習をした。
「参った。もう今日はここまでにしょう」
デオンが音を上げるまで公爵はどんどん学んでいた。
「私はラテン、ギリシャ語習得は少しずつやったんだから、君は無理するなよ」
「え、ギリシャ語も話せるのですか?」
「エルトリア旧王妃に毎晩習ったのだ。少しずつでいいんだよ」
連日デオンは公爵にフランス語を教えた。
「何で急に学ぼうと思ったんだ?」
「僕はフランス人の血が流れているので、フランス語をもっと勉強したいのです」
公爵はナポレオンの子として目覚めていたのであせっていたのかと、デオンは感じた。
デオンは時々、宮廷図書館に通っていてライヒシュタット公爵に会った。
「君も調べ物かい?」
「はい。父の戦史の書があったので色々読みたいなぁと」
次の日には公爵はナポレオン回想録を熱心に読んでいた。
「セント・ヘレナ回想録か。私の本は何かないかな?」
「ざっと本棚は見ましたけど、デオンさんについてはありませんでしたよ」
公爵はにこやかに答えた。
「悔しい!」
地団駄を踏んたデオンをライヒシュタットが笑っていた。
冬の舞踏会シーズンはデオンの他にライヒシュタット公も出なかった。
デオンは学習の一環としてに過去の自分の話を公爵に語り続けた。フランス語で語ったが、公爵はすべての話を理解していた。
「でもルイ16世が亡くなったら、デオンさんは女性である必要はないじゃないですか?」
「ロンドンの皆が私を女と信じていたから、もう男に戻れなかったのだよ。うかつなことは告白するなってことだな」
「で、デオンさんっていくつなのです?」
「98歳だな。まぁ、君のことはいつまでも見守れるってことだな」
「それは頼もしいです」




