交響曲第9番
1824年5月7日、宮廷劇場でベートーヴェンの第9の初演が行われた。フランツ帝とサラマンダーマシロを抱いたカロリーネとお供のデオンも貴賓席に座った。
宮廷劇場は満席だ。総指揮はベートーヴェンが行った。
1 大序曲 序曲「献堂式(作品124)」
2 3つの大讃歌「ミサ・ソレムス」より
「キリエ」
「クレド」
「アニュス・ディ」
3 大交響曲「交響曲第9番」
第9は演奏中でも熱狂的な拍手がわき起こった。デオンは新しい音楽の波にのまれ、興奮した。
第2楽章のティンパニのソロ入りでより一層高まって、一時音が聴こえなくなるほどになった。
第4楽章初めから主題曲の演奏に入り、「おお、友よこのような音ではない」の合唱へ移った。
O Freunde, nicht diese Töne!
おお友よ、この調べではない!
Sondern Iaßt uns angenenehmere.
これでなく、もっと快い、
Anstimmer und freudenvollere.
喜びに満ちた調べに共に声をあわせよう
Freude, Schöner GÖtterfunken,
歓喜よ、美しい(神々の)火花よ、
Tochter aus Elysium,
天上の楽園の乙女よ!
Wir betreten feuertrunken,
私たちは情熱の中に酔いしれて、
Himmlische, dein Heiligtum.
崇高なあなたの聖所に足を踏み入れる、何と神々しい!
Deine Zauber binden wieder,
この世の習わしが厳しく分け隔てたものを、
Was die Mode Streng geteit;
あなたの聖なる偉力が再び結び合わせる……(そして)
Alle Mensechen werden Brüder,
あなたの穏やかにたゆたう翼のもと、
Wo dein sanfter FlÜgel weilt.
すべての人々は兄弟となる
Wem der große Wurf gelungeb,
大いなる幸福に恵まれた人は、
Mische seinen Jubel ein!
歓喜の声をあわせよう
Ja, wer auch nur eine Seele
そう、この地上でただ1つの人の心でも
Sein nennt auf dem Erdenrund!
自分に大切なものと信じ得る人も!
Und wer’s nie gekonnt, der stehle
だが、それができなかった人は涙ながらに
Weinend sich aus diesem Bund!
ひそかにこの集いより離れるがいい!
Freude trinken alle Wesen
この世のあらゆるものは歓喜を
An den Brüsten der Natur;
自然の乳房よりのむ……(そして)
Alle Guten, alle Bösen
善人も悪人もすべての人が
Folgen ihrer Rosenspur.
バラ色の小径をたどる
Küsse gab sie uns und Reben,
自然は私たちに口づけとぶとうと、
Einen Freund, geprüftim Tod;
死をも分かち得る一人の友をもたらし
Wollust ward dem wurm gegeben,
虫けらは快楽が与えられ……(そして)
und der Cherub steht vor Gott.
天使ケルビムは嬉々として神の御前に立つ
Froh, froh wie seine Sonnen fliegen
喜べ喜べ自らが陽光に満ちた大空を駆けるように、
Durch des Himmels prächit’ gen Plan,
天空の壮麗な広野を飛び交い、
Laufet, Brüder, eure Bahn,
走れ兄弟よ、君たちの道を、
Freudig wie ein Held zum Siegen!
晴々と勝利に進む勇者のように、
Seid umschlungen, Millionen!
抱き合うがいい、数百万の人々よ!
Diesen Kuss der ganzen Welt!
この口づけを全世界に!
Brüder über’m Sternenzelt
兄弟よ! 星空の上には
Muß ein lieber Vater wohnen.
いとしい父が必ずいらっしゃるはず
Ihr stürzt nieder, Millionen?
あなたがたはひざまずいているか、数百万の人々よ?
Ahndest du den Schöpfer, Welt?
創造主の存在を予感するか、世界よ?
Such’ ihn über'm Sternenzelt!
星星のかなたにその人をたずねよ!
Über Sternen muß er wohnen.
星星のきらめく上に必ずやその人はいらっしゃる
曲が終わると聴衆が総立ちになって、帽子やハンカチを振り回していた。
デオンは涙を流しながらベートーヴェンに拍手を送った。
ベートーヴェンはまだ総譜を見つめていた。ソプラノ歌手が楽聖の袖を引いて客席に向けさせていた。
「お前、なに泣いているんだよ」
「マシロには、この曲の凄さが解らないのか?」
「知らねぇな」
「このでぶトカゲが」
大泣きしたデオンはマシロの頭を叩いた。




