エルトリアのパンダ
6月になるとルイーゼがウィーンにやって来た。
フランツ少年が大喜びで抱きついた。別の男の子も来ていて2人はいい友人になった。
マシロたちがエルトリアに帰る頃合いであった。
デオンは冬の舞踏会の様子をマシロの家族に話した。ルカは母親に甘える小フランツのように、デオンに寄り添っていた。
デオンはそんな彼女をいつしか愛らしく感じ、給仕の仕事にはけんだ。
カフェの休みにデオンとルカは、ブダの本屋に赴き、詩集を購入していた。
デオンがルカの部屋に出入りする様子が、カムナギとキリル、ユーリの間で噂されていた。
「あの子、本好きのおかげですぐにデオンさんと仲良く出来たのね」
ヴィクトリーアがサラマンダーマシロを抱えて微笑んだ。
「僕はもっとデオンさんとフェンシングやりたかったなぁ」
キリルは少しむくれていた。
「2人の邪魔するのは、ヤボだぜぃ」
「そうだね。ハルダーフォルクにも新しい血が必要だし、できればクーシーたちと付き合って欲しかったな」
ユーリが愚痴った。
「確かにローシーとクーシー、デオンならマシロの血が入らないし、キリルとユーリーに春が来るのにな」
マシロは息子をなぐさめた。
「だったら2人は40人の近衛隊の誰かと、ネンゴロになっていたんじゃないの」
小声でカムナギがマシロに牽制した。
「確かに2人は変に潔癖なところがあるしなぁ」
マシロとカムナギはひそひそ話をした。
エルトリア王国はスカンジナビアから来たハルダーフォルクたちに建国された。
女王が戦争で領土を広げ、戦いで毒矢で死去してから人間の王がたったが、大国に攻められてしまった。
ルカの部屋にあった古いラテン語の本には、奴隷だった、真っ白な心の君が、隣国に攻めてエルトリアを取り戻したとある。
「じゃ、赤竜と庭にいる金毛のクマが、その侵略国のもので、3頭の狼は王妃が魔術で作ったもの。で、パンダは……」
開店前のカフェで着替えたデオンがつぶやいた。
「パンダはモンゴル軍にくっついていた集団から奪ったの。かわいいでしょう」
満面の笑みでカムナギが答えた。
「まてよ、その集団の子孫がシカ鳥とか術で呼び出したのか……」
リアはカウンター席までうろついた。
「でもお前、怪鳥退治して勲章もらったからいいじゃん」
マシロが小鍋をサラマンダーで温めた。
「そのかわいいパンダも給仕にすればいいじゃないか。人気出そうだぞ」
リアはいたずらっぽく笑った。
「ここじゃせまいから駄目よ。あの子は国の守りなの」
カムナギはやる気なさそうにはいた。
「その割には16世紀にオスマントルコに攻められたそうじゃないか」
「あれはシカ鳥がたくさん出て、モハーチの戦いで負けただけよ」
カムナギは呆れたように答えた。
「でも公衆浴場はとても良かったよ。マッサージとかさ。まぁ、ちんちんの毛を剃るはめになったけどね」
キリルが少し顔を赤らめた。
「僕もツルツルに剃りましたよ」
ユーリは股間に手をあてていた。
「へぇ、そりゃ災難だったな」
テーブル近くに寄りかかったリアは開いた股に手をあてた。
「お前ら、働け!」
マシロが怠け者たちを怒鳴った。
カフェも3日間の休みを取り、ブダから南西にあるヘーヴィーズ湖へマシロの家族と守り人と行った。
森林に囲まれた温泉湖で貴族が数人来ていた。
デオンとマシロ一家は中央の湖面でサラマンダーを浮かべ、裸で入った。
湖面は濁っていたが、サラマンダーで温めるとデオンにも気持ちよく入れる大温泉となった。
湖は深いため巨大化した白狼とパンダが浮き輪代わりになっていた。
「青空で浸かる湯もたまらん」
パンダの茶色の腕につかまったデオンは恍惚となった。
寝泊まりはテントを張って3つのグループに分かれた。
デオンの両脇にはルカとキリルが寝転び、デオンも安眠した。




