聖槍ロンギヌス
6月になって、ホーフブルク宮の宝物庫にデオンとサラマンダーマシロがフランツ帝に案内された。
宝石をちりばめた王冠、帝王権を示す十字架のついた地球儀やきらびやかな装飾品の中に、大きなガラスケースにいぶし銀の槍が収められていた。
穂先の鋼と基部が銀のさやに包まれてつながり、基部には金の十字架が彫りつけてある。
「なんか古くて地味な槍だぜぃ」
デオン頭上のマシロが述べた。
「あれでも由緒正しい宝物だぞ。イエス・キリストの処刑で骨が砕かれようとしたときに、ローマの百卒長ガイウス・カシウス・ロンギヌスが、キリストの脇腹に槍を通して肉体を守った時の物だからな」
フランツ帝はマシロを諭した。
「聖槍の所有者は世界を征すると云われても、憎きナポレオンに欧州をめちゃくちゃにされたからなぁ。この安寧な時こそ眺めるのにいいのだよ」
フランツ帝はガラスケースに手を当てていた。
「ロンギヌスって聖人になったんたよね?」
デオンはフランツ帝に尋ねた。
「もちろん。槍から滴り落ちたイエスの血で白内障のロンギヌスの視力が治って、彼はカッパドキアで布教に努めたが、偶像崇拝を拒否して捉えられ斬首されて、聖人となったのだよ」
「殺されて偉くなるのも大変だぜぃ」
「聖人はだいたいそうだからな」
ロンドンでひっそりと亡くなったデオンは祀られることは縁遠いことであった。




