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新生デオンの暇仕事  作者: kazfel
喜びに満ちた調べに共に声をあわせよう
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シュヴァリエ・デオン伝 ロンドンの噂

 1770年42歳のシュヴァリエ・デオンにロンドンでの新たな噂が襲いかかった。


 シュヴァリエ・デオンは女ではないのか?

 シュヴァリエ・デオンがあれほど誇らかに身に着けている灰色の竜騎兵の軍服が覆い隠しているものは?


 政敵のゲルシィが誹謗(ひぼう)文作家ヴェルジーとグーダールを介して巷に流していたデマである。

 ロンドンのカフェでは誰でも断言した。

「シュヴァリエ・デオンはふたなりなんかじゃない。正真正銘の女さ!」

 デオンの外見が小柄な背丈、華奢(きゃしゃ)な手、髭のない繊細な顔立ち。甘くて魅力的な声。

 大衆が信じるには値するものである。


 女性と見間違える美貌のデオンは何度も上流階級の友人から、良家の子女を紹介され、結婚をすすめられた。

 しかしデオンは会うことなく執拗(しつよう)な結婚話に巻き込まれそうになれば、すぐにその場を去った。

 友人たちは唖然としてこう結論づけた。

「シュヴァリエ・デオンが結婚したがらない訳はこうさ。赤い袖章のついたあの灰色の美しい竜騎兵の軍服は、変装に過ぎないからだ」


 ちょうどロシア大公ヴォロンツォーク(めい)のアスコット皇女がセント・ジェームズ宮廷に来ていた。

 官臣からデオンの噂を聞いてこう発言したのだ。

「デオンってリア・ド・ボーモンのことかしら。リアなら女官部屋にいましたし、エリザヴェータ陛下の朗読係を務めていましたわよ」

 皇女の証言がロンドンっ子の好奇の心を燃え上がらせた。

 サロン、クラブ、カフェ。庶民階級の間でもデオンの噂で盛り上がった。


 1771年にはフランスのロンドン駐在大使シャトレ伯爵も、デオンは女であると確信し、ルイ15世に報告した。

 軽薄な国王は大使の動揺を面白がり、モネ将軍に書簡を送って事の次第を吹聴してしまう。

 デオンの風評はパリでも話題になっていた。


 英国では誰もが信用している噂。その無軌道ぶりによって極めて高名な激情の人である。

 デオン殿が、実は男性衣装を身に着けた小娘に過ぎないという。パリでもこの風変わりな人物の関心を呼び起こした。


 デオンは苛立(いらだ)ちながら、自分の性の疑わしさがパリまで広がっている新聞記事を読んでいた。

「あの頃の私はロシア語が話せなかったのに、どうして女帝の朗読係ができるというのだ」


 土曜日に思い立って軍服を着て杖を持ったデオンは証券取引所近くのカフェへ出向いた。

「ミスデオン、おっぱいは小さいんだなぁ」

 いきなり胸をつかまれたのでデオンは銀行家を杖で叩いた。

「男の私に失礼な! そこで謝れ!」

 男をひれ伏せた後、デオンは叫んだ。

「そこの皆々様、私を女と疑うなら、いかなる武器を選んでも構わないので、私と決闘してくれないか?」

 デオンは杖をカフェの客に見せて頼んだ。男たちは揃って行儀よく断った。


 デオンは2時間留まったが誰一人として決闘の名乗りをあげなかった。デオンは彼らが意を決して考え直す場合もあるかと思い、彼らに自分の住所を教えてカフェを出た。


 しかし噂がくすぶり始めたとき、デオンは思慮(しりょ)深い友人たちと相談し、ロンドンを去って1、2ヶ月間姿をくらませようと決めた。


 デオンは偽名で英国北部とスコットランドの一部を廻った。アイルランドへ行く途中、目にした新聞でデオンの似顔絵が載っていた。

「これは……」

 行方不明のデオンを心配した友人たちが警察に捜索を依頼していたのだ。

 デオンは急いでロンドンへ戻った。 

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