働くリア
「お待たせ! デオンさん髪留め取ってね」
ルカが紺色とフリルが白の女物の服を持って来た。
「何の冗談だ?」
「デオンさんはこれが1番合うのよ。だってきれいな妹ですもの」
ルカの妹設定にデオンは唖然とした。
確かに彼らの方がはるかに年上なのだ。ルカは尾を振っていた。
デオンはため息をつきつつ、カフェの隅で着替えた。
身体にぴったり合っていたのに驚いた。
「かわいらしい! デオンさんじゃなく何て呼べばいい?」
キリルが寄った。
「リア・ド・ボーモン」
デオンは照れて答えた。
「じゃあリアさん、お客さんが来たら注文お願いします」
ユーリはコーヒー豆を焙煎していた。
カウンター脇のサラマンダーマシロは丸く平たい石の上に、ユーリにサラマンダーを出してもらった。
マシロはサラマンダー上に、長い舌を使ってイブリック(専用の小鍋)を置いた。
コーヒー粉とハチミツをキリルが長い柄の付いたイブリックに入れ、水も注いだ。
「いらっしゃいませ」
リアは来店した2人の客の注文をとった。
「かわいい娘さんだねぇ。新人さん?」
「はい、ご注文は?」
「今日はマシロちゃんのコーヒーとミルヒラーム・シュトゥリューデルね」
「息子さんのコーヒーとファッシング・クラプフェン」
ハプスブルクの宮廷スイーツがメニューに組み込まれているのが驚きであった。
リアは後に甘くて温かいバニラソースと甘酸っぱいサワークリームと揚げパンを客に出した。
たかだか派手なコーヒーショップなのに客がいっぱい集まり、リアは忙しく応対した。
「こんなべっぴんさん雇って嬉しいねぇ」
リアは注文が終わるまで尻を触られ続けた。
ロシア皇帝のように殴るわけにもいかず、「おいたはダメよ」と客の手を軽くつねった。
4時に営業が終わり、リアはテーブルで突っ伏した。
「今日はすごかったね。リア、デオンさんありがとう!」
キリルが後ろから抱きついた。
「全く現金な客だ……」
疲れてうめいているところを、カムナギがボヘミア菓子ブフテルンを出した。
「デオンさんどうぞ」
「ウィーン会議人気スイーツとは、やるな!」
デオンはスモモのムースが甘酸っぱい蒸しパンを頬張った。
夜のラテン語学習でデオンは居眠りし、クーシーは彼を抱き上げてベッドで寄り添って眠った。
翌日もコーヒー店は大繁盛であった。
「かわいい新人さんが入ったか」
ここでは尻を触られずに済んだ。
「美女の従業員とは珍しい」
リアは尻を触られた。
「あのご注文は……」と言いつつ、客の手をつねった。
「いいねぇ」
喜んだ客はリアの胸に触れた。パットで補強とルカの幻覚の術で怪しまれなかった。
あまりの忙しさにリアはめげそうになって、マシロを見た。
丸椅子に乗ったサラマンダーマシロは、長い舌で小鍋の柄をつかみ、コーヒーを温めていた。
(あれよりマシか……)
尻くらいは我慢しようと、デオンは耐えた。
営業が終わるとマシロはだらしなく舌を伸ばしたまま、腹を見せてひっくり返っていた。




