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新生デオンの暇仕事  作者: kazfel
喜びに満ちた調べに共に声をあわせよう
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エルトリアのリア

 皇帝夫婦がイタリア訪問中に、マシロと毛皮コート着のデオンは11月からエルトリア王国へ飛んだ。

 ドナウ川が町の中央を北から南へ貫流して、西側には小高い丘がいくつかあり、丘にバロック様式の王宮があった。雪降る中、王宮上空には赤くて細い身体の竜がいた!

「竜? なんで? 何で竜なんでいるの?」

 麒麟騎乗のデオンは竜にぶつからないように観察した。腹に折れた刀の先が付いていた。赤竜はただ飛び回っている。

 丘の対面に平野の町があった。大河には船を並べた橋があった。

「王宮町がブダで平野がペシュト町だぜぃ」

 白狼の頭にサラマンダーになったマシロがいた。

「竜は狼と同じ守護聖獣で他に青白と黄色狼、金色クマ、それにパンダもいるぜ」

「白狼と同じ仲間かぁ」

 ブダ王宮中庭にはなぜかオリーブの木々があり、マシロみたいなサラマンダーが何匹もいた。金色クマと白地に茶色分けの変なクマがいる。

「あれがパンダなのかい?」

「そうだ。モンゴル軍が1241年4月ごろか、パンダを連れた術士の集団がいてさぁ、マシロの娘カムナギが奪い取ったんだぜぃ」

「マシロに子供がいたのか?」

「もっといるぜぃ」

 サラマンダーのにやけた顔からデオンは信じ難い気がした。


 ブダ王宮に入ると中は絢爛(けんらん)なロココ調で、双子らしき女性たちが迎えていた。

「我が君、やっと御帰還ですね!」

「やぁ、クーシーにローシー」

 マシロよりも年かさの2人は美しくて長い銀髪で水色フロックコートの男装だった。銀の長い牛の尾が双子にあった。

「マシロ以外に尾が生えているのか」

 デオンは小声でささやいた。

「いいか、ここではマシロはサラマンダーだ。真の姿のことをもらすと絶交だぜぃ」

 サラマンダーは糸目を吊り上げて叱った。

「で、あのきれいなお姉さん方は家臣かい?」

「我が君がご友人を連れて来たのね! うふ、私はクーシーよ。あなた、女の人?」

 サーベルをさげているクーシーはマシロよりも低かったが、やはり大柄の女性であった。

「私はデオン・ド・ボーモンで、男なのだが、あ!」

「でも声も高いし、甘くなんか魅力的ねぇ……」

 デオンはクーシーに一物を握られ変な声をあげた。

「クーシーは手クセが悪いからなぁ。許せ」

「本当に男なのね。マーシーに妹が欲しいから今夜、私の部屋で寝ましょう」

 妖艶(ようえん)なクーシーはデオンに身体を密着させている。デオンには相手の意図が読めたが、いつまでも握られ続ける彼女に心も許せない。

「私はあなたとする気が全くないのだが。生前も女性との密着関係を避けていたしな」

 デオンは笑顔で断った。

「は? フランスって不倫が文化じゃないの? パコパコするのが当然な民族じゃないの? あなた不能なの?」

 クーシーの手が股間から離れたのはいいが、ハッキリ言われると苦笑するしかなかった。

「クーシー、彼の診るべきところは下じゃなくて心臓なんだけど」

 ローシーは顔を赤らめてデオンの胸に手を当てた。

「赤い石による不死者なのかしら」

「賢者の石なら不老不死ねぇ。ラッキーな身体に取り憑いて凄いわぁ」

 クーシーが話に割った。デオンの頭を撫でていた。

「その不死とかは伝説じゃないのか?」

「いいえ、あなたに作用しているものは本物です。ニセモノを語った話はキリがありませんが」

「私たちといつまでも居られますし、子作りは気が向いたらしようね。あなたの教会以前の古い記憶はうんこだらけのヴェルサイユ宮殿が浮かんできたわ」

 クーシーはデオンの額に手をあてていた。言われて見ればヴェルサイユ宮殿は廊下や階段の隅、庭園の噴水の中と汚物の山だった。

「マシロ、この人何者なんだ?」

 クーシーとローシーは非常に良く似た双子で見た目ではとても区別がつかない。だが言動で分かるのはありがたい。

「エロいのがクーシーだぜぃ。2人は巫女の家系だぜぃ」

「私よりクーシーが探知能力が強いのですが、あんな性格なので」

「ほんとデオン様は女の人に手を出していないのねぇ。退廃したフランスロココの中で奇特というか、でもそこが攻略しがいがあるねぇ。調教しちゃおうかなぁ……」

 クーシーの流し目にデオンは無視した。

「そうだ。私の部屋にラテン語の本があるのよ。古い本がいっぱいあるから今夜どう?」

「古書だと!?」

 デオンはクーシーの策だろうと怪しんだが、無性に読書したくなってきた。

 大広間ではマシロの家族の紹介があった。波打つ金髪の女性がマシロの正妻でヴィクトリーア。

 赤毛の髪の双子で若い女性が赤い牛の尾でルカ。

 男性も牛の尾でユーリ。2人がヴィクトリーアとの子供だ。

 耳が尖った男性がキリルで、茶色の牛の尾の女性がカムナギ。2人とも茶髪で妖精の国での子供であった。

 ローシーとの子供が赤毛のルーシー。クーシーとの子供も赤毛でマーシー。双子は守り人いう王家の家臣だ。

「さらに王の近衛隊の40人の子供は……後で会えますか」

 クーシーは付け加えた。

「まだ子供がいたのか?」

 デオンは太っちょトカゲに尋ねた。

「てへっ」

 マシロの子供たちはデオンへ集まっていた。

「わぁ女の人みたい」

「こんなきれいな人間、はじめて見たよ」

「ずいぶん小さな騎士だな」

「父さんの友人だから、強いのかな」

 守り人の2人の子供は彼女たちと瓜二つだ。他のマシロの子供たちはマシロに良く似ている。彼らは大柄であった。

「君たちは何年生まれだい?」

「私たち妖精界組は1206年生まれよ」

 カムナギは元気に答えた。

「僕らは1209年です」

 ユーリが答えた。

「うちのマーシーは1207年ね」

「ルーシーは1208年よ」

「マシロは1189年だぜぃ」

「そんなお年でしたか……。守り人たちは?」

「たぶん900年あたりかな〜」

 クーシーはのんきに答えた。

「際ですか……」

 少なくても彼女たちに楯突くのはやめようとデオンは誓った。

 食事はパプリカと豚肉入りのグヤーシュと豚の丸焼きが出された。元王妃とマシロの母親も席についた。


 夜間、デオンはクーシーの部屋に入った。こちらの暖炉にもサラマンダーがいた。

「これはもしかして、マーチャーシュ王のコレクションと言われる本なのか!」

 本棚にはマーチャーシュ王時代の装丁が鮮やかな大型本が揃っていたが、デオンはラテン語の読みをすっかり忘れていた。

「読めないとは……」

「ラテン語なら教えるわよ。我が君にも昔は私が教えたんだから」

 クーシーは身体を密着した。

「お願いします!」

 デオンは眠くなるほど学習し、後はクーシーのベッドで眠りこんだ。


 朝になればクーシーにデオンは入浴場へ連れられた。

 古代ローマ時代の大規模風呂場を模した大浴場は湯がたっぷりとあった。

「サラマンダーが何匹もいる」

 裸のデオンに臆せず、マシロの娘たちは石けんと黄色のスポンジを持った。大理石の床の石椅子にデオンは座った。

 サラマンダーマシロを肩に乗せた緋色(ひいろ)髪のルカが、淡い緑石けんを手にした。

「私がデオンさんの長い髪洗ってあげる」

「じゃあ、僕は身体を洗いますね」

「あ、ずるい!」

 ユーリにスポンジと石けんを取られたキリルは悔しがった。

「身体は自分で洗うよ」

 何だか子供扱いされている気がデオンにしてきた。

「いいのです。僕ら人間と浴場で接したのは、オスマントルコ支配以来ですからね。何だか懐かしくて」

 ユーリは赤い牛の尾を振り続けていた。

(こういうところはマシロと同じだな)

 無邪気な青年像は親子一緒だとデオンは微笑ましく眺めた

「この石けんいい匂いだな」

「オリーブオイルの石けんよ。お母さんがずっと昔から作っていたの」

 彼らがデオンを洗い終わった後、キリルが「ウンディーネ」と叫んだ。

 裸の女性の精霊が現れ、上から大量の水が降ってきた。

「冷たい!」

 デオンは飛び上がって大理石の大浴槽に入った。サラマンダーマシロも飛び込んだ。

「お父さんもっと広範囲で泳いだら?」

 ルカがデオンの腹付近で浮かぶマシロに勧めた。

「マシロはデオンのちんこ付近で泳ぐのが習慣なんだぜぃ」

「単に浴槽が狭かっただけだよ」

 デオンはマシロの背をつついた。


「デオンさん、身体が細いんだね」

 キリルが左隣に来た。デオンはキリルの尖った耳を眺めた。

「君は別の種族なのかい?」

「僕は母親がノーマルエルフだからね」

 茶髪のエルフはさわやかな笑顔で答えた。

「僕たちはハルダーフォルクです」

 ユーリが尾を揺らした。

「私たちはスカンジナビアのエルフなの」

 デオンの正面に寄ったカムナギとルカが声を合わせた。

「君らが旧王族ということは、エルトリアという国は、ハルダーフォルクが建国した国なのかい?」

「その通り!」

 キリルが即答した。

「ヴィーキング(ヴァイキング)時代にスカンジナビアから渡って、この辺りを統治していたの」

 ルカが解説してくれた。

「ヴィクトリーア王妃はエレウーマンで、僕たちと同じ光のエルフで神に近い種族なのです」

 ユーリが誇らしげに語った。

「とりあえず君たちがとても長生きなのは、分かった」

「ただの長生きじゃないよ。寿命の概念がないの。守り人を見れば分かるでしょう」

 デオンはルカの青い瞳を凝視したが、理解できなかった。

「判らん。いずれにしても私が先に死にそうだな」

「人工的な赤い石なら、限界が来るかも知れないね。クーシーとローシーは薬師(くすし)だから、どうにかなるよ」

 キリルはデオンの右肩へ腕をまわした。

(そんなこと、どうにかできるものなのか? 成るようになるしかないかないような……)

 デオンたちが着替えるとルカはデオンを誘った。

「中庭に来て。手伝って欲しいの」


 ルカに手を引かれ中庭に行くと黄緑色のドアと黄色狼がドアを見張っている。空の荷車があった。

「作物を詰め込みたいから行きましょ」

 ルカはドアを開いた。荷車を引いたデオンは淡いレモン色の空と白い花が咲き乱れる草原で立ち尽くした。

「ここが妖精の国で幸せヶ原よ」

 デオンはルカについて行って農作物を荷車に積んだ。

 小麦と大麦畑にコーヒー豆の農園を(まわ)ると、鼻が大きく膨らんでいて牛の尾が生えた短躯(たんく)の男たちが働いている。

「彼らはトロールよ。農作物を給料として使っているの」

「おお! ルカ様、ついに人間の奴隷をお連れになりましたか!」

 身なりが良い小男が寄って来た。

「違うの! ただのお手伝いよ。デオンさん、気を悪くしないでね」

「こんな丈夫そうな人間がもったいない。あー、さすが面食いのハルダーフォルク! お婿(むこ)さん候補ですね」

「それは……ありかも」

 ルカは顔を赤らめてデオンに向いた。

「早く収穫して出よう。ここは人間が長くいる場所ではない」

 デオンはルカの手を引いて催促した。本能的に長居したくない。遠くの山々も何が潜んでいるのか怪しい限りだ。

「判ったわ。あなた」

 ウィンクしたルカはトロールたちに指示して乾燥したコーヒー豆を集め、袋詰めして荷車へ載せた。

「家でこんなに飲むのか?」

「お店で使うのよ」

 王宮へ戻るとデオンは収穫物の整理を手伝い、時間が余ったらクーシーの部屋でラテン語を習った。

 文字が多少読めると読書が楽しくなってきた。

  

 翌日、デオンはサラマンダーマシロと子供たちに連れられて入浴朝食後でブダ王宮を出た。

 かなり先に白い尖塔のマーチャーシュ教会があった。

 その先にマシロたちが経営するコーヒー店「テレーゼ」がある。

「おしゃれな店だな。何かごちそうしてくれるのかい?」

 マシロを抱いたデオンが聞いた。

「ここでマシロたちとデオンが働くんだぜぃ」

「は? 君らは旧王族なのに?」

「この店はレオポルド1世に認められたブダの第1号だよ。オスマントルコの人たちが去った後に、父さんに出店を認めてくれたんだ」

 キリルが詳しく説明してくれた。

 ロココ調の派手な店内は広かった。カムナギは別室へ行こうとしたがルカがいないことに気付く。

「あれ? まだ来てないや」

 キリルは表に出て様子を見ている。カウンターのユーリはコーヒーサイフォンにサラマンダーを召喚した。

 サラマンダーマシロはユーリに移ってカウンターの上に降りた。

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