たくらみ
参考文献
ヒンドゥー教の本 学研
インド神話入門 長谷川明
1921年4月。ベトレン・イシュトヴァーンが内閣を組織し、元皇帝カール1世の復位の企みを葬った。
1924年。
「戦後の混乱も落ち着いて、工場が軌道に乗ったよ」
「国際連盟からの支援なんてベトレン内閣もやるもんだな」
「客の懐が良くなきゃ、こっちは商売にならないからね」
リアはウインクした。
「そうそう。のんびりできるのも経済が安定したおかげだよ」
1927年にはベルリンはイタリアと友好条約を結んでエルトリアは穏やかな情勢にみえた。
1928年10月5日。
「今日はデオンの生誕200年だから、何週間の休養をやるぜぃ」
テーブル上のでぶトカゲは大きな口元がニヤけていて、何かを企んでいるように思えた。
デオンはマシロに勧められてクーシーの部屋に行くと、大型本をテーブルに置いた銀髪の彼女と目があった。
「面白い本を手に入れたの」
「また読めない文字ですか?」
極彩色の絵が特徴的で、人物の表現が変わっていた。
「サンスクリット語なら教えられるわよ」
「何ていう本ですか?」
「ラーマーヤナというラーマ王の冒険物語よ」
「愉快な話なら覚えておきましょうか」
デオンは何日もかけてサンスクリット語を覚えてながら本を読み進めた。
ラーマ王子が普通の人間が持つのには難しい弓を難なく引いてみて、シヴァ神の強弓をへし折ってしまい、シーターをめとることが出来た。
ラーマはヴィシュヌの化身でシーターは大地の女神の娘だ。
シーターは森で10の頭と20本の腕を持つ魔神ラーヴァナにさらわれ、ラーマとラクシュマナは捜索の旅に出た。
「この空飛ぶ猿の神はすごく強いのですね」
ハヌマーンは生まれつき神通力をもち、身体の大きさを変えたり、空を飛び、無双の怪力を誇る。
ラーマを助けるハヌマーンはインドの他にタイでも愛されている。
ある日、デオンがラーマーヤナを読み終えたとき、笑顔のクーシーは別の本を持って来た。
「カーマ・スートラ?」
デオンが手を取るとクーシーは笑みを見せた。
導入部は都会の遊び人の主人公の理想的な身だしなみと、教養としての64の芸が列挙されていた。
音楽に舞踊、時には変装まで。
第2章はいきなり性交について詳しく指南していた。
きわどい挿絵のページをデオンは飛ばして、ひたすらめくり続けた。
「そこ! 何で読まないのよぉ!」
クーシーは叫んだ。
「興味ないのでいいです」
「何ということを……」
クーシーは呆れていた。
第3章は処女の妻を獲得する方法。
第4章は妻の貞女たるべき姿を説く。
第5章は人妻を口説く指南書だ。
第6章は遊女がしかるべき金ヅルの男を誘惑する方法。
第7章だと魅力を増す方法。愛人の歓心をかう方法。秘薬・精力剤の使用、精力回復のための技術を説いている。
デオンは性愛のバイブルを淡々と読んだ。
「でぶトカゲの企みは判った。されど、承服ぜず」
デオンは誇らしげに笑った。
「あなたはそれでいいけど、キリルとユーリは妻をめとれなくて不憫だわ。デオンと私なら、我が君の血が入らないしいいでしょう?」
腰をくねらしたクーシーが説いた。
「そんな政略結婚なんて上手くいきますか?」
「いくわよぉ〜。かわいい女の子が生まれるのよ」
クーシーはデオンに迫った。
「これが私の200歳の祝いなのか? こんなの呪いじゃないか!」
デオンが怒鳴り散らしてもクーシーの圧がとても厚すぎて逃げられない。
1929年10月14日。クーシーに双子の女子が生まれ、金色の長い牛の尾が生えていた。
「わぁ、きっとデオンさんに似たかわいい子になるよ」
キリルは乳飲み子たちに微笑んだ。
「僕がデオンさんの代わりにパパ役やってもいいですよ」
ユーリも寄って来た。
「瞳が青いから生前の私のようになるのかなぁ」
「そしたらかわいい服着せてあげれるね」
ルカは赤い尾を振っていた。
「何でお前らは子供つくらねぇんだ?」
デオン頭上のサラマンダーマシロが尋ねた。
ルカたちは式を挙げなくても一応、夫婦である。
「私が生前、何で結婚しなかった訳を考えてみなさい」
「面倒くさい奴だぜぃ」
マシロは呆れていた。
「名前は何にする?」
クーシーが聞いた。
「う〜ん。ジュヌヴィエーヴとティモテでいいや」
デオンは自分の長い洗礼名から取ることに決めた。
生前何も残さずに亡くなったデオンは、双子に自分の名を残す決心をした。眠る姿に愛おしくなった。




