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アドリアン・ターナーの魔術講義[1]

 魔術師たるアドリアン・ターナーは、この離宮には、言わば魔術的な護衛として滞在しているのであって、王子の教育には関わっていない。しかしながら、現在、王子の学友がわりの役割を担っているのは、彼の有能さに加えて、その特異な立場ゆえであると言えた。彼は、有力貴族の末子であり、魔術師協会の幹部であり、さらには神殿にも大層な地位を持っているのだという。偉いさん全員に煙たがれているというのが本人の言だが、それだけの地位を持ちながら、この離宮でダラダラ過ごしているのは、そういった理由もあるようである。

 もともと、この離宮には前任の魔術師が3人いたのだが、長らく家族と離されて、交代を希望していた。あわれに思った本人が、ちらと代わりに行ってもよいようなことを口にしたが最後、これ幸いと離宮に押しやられてしまったという顛末である。

 だから、本来であれば、彼が何かを教えることはないのだ。本人の言だが、そう間違いでもないのだろうとリリアナは思う。そんな有能かつ、こんな余計なことを教え込みそうな人間をウィリアム王子の教育に深く関わらせるわけがない。

 だから、この事態はイレギュラーだと言ってよいのだろう。

「魔術の基礎を教えてやろう。本当なら、殿下の教育プログラムには魔術はないが、どうも、ここのところ危なっかしい感じがして仕方ないからな。基礎の基礎の基礎だから危険はないし、問題ないだろう。もちろん独断だが」

 魔術師は、地理の講師が来るはずのテーブルに突然やって来て、こう言った。誰一人、この講義のことを聞かされていなかったらしく、変な間があったあと、空気を読んだウィリアム殿下が当然の質問をした。

「トレヴィル講師(せんせい)は、どうなさったのですか」

「残念ながら、講師の職を辞退され、昨日付けで王都に戻った。……誰も殿下に報告してないのか」

 王子の質問に、まあ昨日の今日だしなと呟いて、ちょっとだけ考える素振りをみせたが、大したことがないとでもいうふうにアッサリと続けた。

「第二王子の側近に引き抜きかけられて、五人帰っていったよ。幸いにも、勘のいい人間や声明に参加していた人間はいなかったし、適度に口止めもされてるし、問題ないだろ」

 目出度いことに、ここの教授陣は年寄りの変人ばかりになったぞ、面白いなと笑った。

 その一言で、リリアナにも大体どの教師が残ったのか分かってしまった。しかし、代わりの教師は手配できるのだろうか。このままだと、基礎学問はともかく、経済や産業などの知識を得る術がなくなってしまうのではないだろうか。


「じゃあ、講義だがーーその前に」

 アドリアンは、テーブル上、ウィリアム王子の隣に、リリアナ専用のティーテーブルと椅子を、 さらにその隣に大人用の席を用意させた。

「今回の講義の生徒は3人だ。リリアナ、君の席はここだ。あと、マリヤもここに」

 この取り扱いに侍女長から異義が申し立てられたが、魔術師は、これを認めなかった。

「彼女には、知識を身に付けてもらわないとダメなんだよ」

 柔らかな物言いながら、まったく譲らない様子だった。

「さぁ、生徒の諸君は座りたまえ。拒否は許されていないよ。なんと言っても、君たち自身の安全のために必要なことだからね」

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