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転生した侯爵家のお嬢様は人ならざるものに愛されすぎています〜自由に這って進む繭を誰もとめられない〜  作者: 白木のた
第一章

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9夜天芸術祭ってなにー!

 


 私が過去を振り返っている間に、父とジョントは和やかな雰囲気を漂わせながら紅茶の風味を堪能し、サンドウィッチを上品に食べ、他愛無い話をしてお茶会を満喫していた。

 完全に蚊帳の外になる前に意識を戻す。



「そういえば、港町の様子はどうだい?変わったことはなかったかな」


 話題を振った父は長い足を組み、お茶のおかわりを従者に入れてもらっていた。

 紅茶をゆっくり嚥下したジョントが、カップを口から離す。暫し考え込む様子を見せたが一度瞬いた後、父に視線を向けて頷く。


「今のところは。夜天芸術祭が近いから、宿泊の予約をしようと隣国の貴族の使用人が、町をうろついてる姿をよく見かけるようになったくらい。ホテルのオーナーや、土産売ってる店の従業員は忙しいって言ってたけど、町への影響はそれほどない。用事を済ませたら、ほとんどが大人しく帰ってるよ」


「例年通りでなにより。今年は久しぶりに領都と港町も祭りに参加するからね。いい収入になるだろう。治安の悪化については、何か対策を打っているかな」


「今年は、見回りの人数を三倍に増やすって言ってたから大丈夫」


「そうかい?なら安心だ」


 お、港町のお話ですか?

 やてんげいじゅつ祭?てなに、なになに何のお祭り?


 テーブル上にある障害物を避けて、父の元へとそそくさと移動した私。それに気づいた父が、手を伸ばす。その手にトントンと体を当て、首を傾げる仕草を見せる。


「うん?気になることがあるんだね。……夜天芸術祭のことかな?」


 何度も頷く。

 それそれ!夜天芸術祭ってなにー!


 父は一度私を撫でてから、説明し始めた。


「夜天芸術祭はこの国の夏の風物詩でね。陽が落ちて暗くなった頃、色をつけた魔法光を夜空に打ち上げるんだ。沢山の魔法光で絵を描いて、どの領が一番美しい作品を描けるか競うお祭りだよ。もともとは、鑑賞するのが目的の催しだったんだけどね。いつの間にか領地対決に発展したんだ」


 おー!そんなお祭りがあったなんて!異世界ならではですね!


 ぴょんぴょん飛び跳ねる私に、父とジョントが顔を見合わせてくすくす笑っている。


「領地でチームを作って、民も貴族も関係なく参加するんだ。魔力量の多さと、魔法に長けてるチームが有利で、凄い奴らは絵を動かせたりもする。夜の空をキラキラ光る馬が駆け回ってたりするんだ。かっこよかったなあ」


 力説するジョントの目は輝いている。



 最初は魔法で花火でも打ち上げるのかと思ってたけど。

 聞いてる感じ、アレに近いかな。ドローンショー。あれは、プログラミングで一括制御して飛行させてるけど、夜天芸術祭は魔法光一つ一つを人力でって事だよね。大変そう。



「前回は確か、ストルブーク公爵の領が優勝したね。領全体で題材を決めて、一つの大きな作品を作り上げたんだ。素晴らしいの一言だったよ」


「あれはほんとに凄かった!俺、弟と一緒に受像魔道具『テレモ』で各領地の作品観てたんだけど、派手さも規模も、他の領地とは比較にならなかったな」


 うんうんと頷き、ジョントが父に同意した。

 ヴァンゼスのお家がある領地が優勝したのかぁ。やるね。

 どんな題材だったんだろう。気になる。


 それにしても、受像魔道具テレモとは?

 テレビのことかな。多分テレビだよね?各領地を中継するって、凄い規模のお祭りだ。実際に見ることも出来て、テレビでも楽しめるのかぁ。

 事情があって外に出られない人でも、祭りを楽しめるようになってるね。素晴らしい、拍手を贈りたい。あ、でも魔道具って簡単に買えるものなのかな……。

 平民の人達にも普及してる?貴族しか買えないような代物じゃないよね。

 どうなんだろう。



「夜天芸術祭の前後は騒がしくなるから、ここ数年は辞退していたんだ。でも、リルも夏の終わりには四歳になるし、今年は参加することにしたんだよ。見たいだろう?」


 むむむ、と考え込んでいた私だったが父の問いかけに即座に反応した。


 もちろん見たいよ、ちちー!


 父の胸に飛び込む。抱きしめられたと同時にその腕から抜け出し、二の腕や肩、背中を這い回る。首筋から胸元に戻ってきた私を捕まえた父は「こら、くすぐったいよ」と言って、目元を和らげてこちらを見つめる。

 そっか、私のために参加しなかったんだね。

 町の人たち、参加したかったよね、ほんとごめんね。

 今年からはみんなで楽しもうね!




「ただ、リルに一つお願いがあるんだ」


 不意に、私を抱く腕の力が緩み、真剣な目をした父が一つ、と指を一本立てた。言い聞かせるように話し出す。


「祭りには、他の大陸からこの国を目指して、たくさんの人々がやってくる」


 慎重に、分かりやすく。

 静かに告げてくる。


「祭りに興奮して力を使ってしまうと、リルの事を知られてしまう危険性があるんだ。今までリルは力を使ったことはないけれど、不安でね。なるべく使わないように頑張ってくれるかい?」


 柔らかな笑みを浮かべながらも、瞳は不安げに揺れていた。


「父様のお願い、聞いてくれるかな?」


 私は父を安心させようと、しっかりと頷いた。


「ありがとう、リル」




 よしよしと頭を撫でる父の手に、すりっと頭を擦りつける。



 大丈夫だよ、ちち。



 シュリンに聞いたところ、条件が揃わない限り異能は発動しない、とのことだ。その条件の中に、私の意思が含まれている。つまり異能を使わないと決めていれば、発動しない。

 また、シュリンの中にいる状態では、発動する確率はかなり低くなるらしい。

 私が無意識に使おうとしても、シュリンが防いでくれるってことだよね。



 父に教えてあげたいけど、次に聖者さんが来た時に、シュリンに伝えてもらうしかないかなぁ。




 祭りの日はあまり興奮しないように、全力で楽しむとしよう。




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