10あぁ〜ん?やんのかっ?
この間のお茶会楽しかったなぁ。
お茶会を思いだしながら、私は廊下を這う。
時々すれ違う使用人が私に向ける眼差しは、慈愛に満ちている。頑張って這ってるよ!
兄様候補と挨拶をした日から、二週間経った。あれから三人は各自好きなように過ごしているようだ。
ヴァンゼスは毎日のように図書室に入り浸り、本を読んでいて。ジョントは父と話したり私と遊んでくれたり、街にお出かけに行ったりしている。私も連れてって、と玄関ホールで足にしがみついたら、やんわりと却下され、引き剥がされた。
うぐぐ。
ジルエンは父に会いに、頻繁に執務室や書斎に行っている。あんまり相手にされていないようで、すぐに追い出されているそうです。テプトア情報。
私にはまあ、会いにこないよね。会うのはご飯食べる時くらい?
あと、偶然廊下で会ったり。
いつも無表情で舌打ちしてくるのですよ、彼。何か言ってくれれば反応できるのに、リアクションに困るからやめてほしい。はうっ、って仰け反ればいいかな?
ジルエンは、初日から屋敷の精霊に目をつけられていた。
食事の時間になっても食堂に現れなかったことで、使用人に呼んでくるよう父が指示したんだけど、行ってみたらまあ大変。ジルエンは部屋に閉じ込められていた。
部屋のドアが開かなかったようで、ドンドンと叩いて叫んでいたと、使用人が知らせにきたのだ。
なんでそんなことに?と疑問に思っていた私に、シュリンと屋敷の精霊が教えてくれた。どうも部屋で、危ない発言をしていたとか。私に対する言葉だったからか、シュリンと屋敷の精霊はかなり怒っていた。危ないから接触させないように閉じ込めたらしい。
だめだよ早く開けてあげて!と伝えた数分後、ジルエンは無事に部屋から出られたようで、食堂に姿をみせた。父たちは建て付けが悪かったのだろうと言って誤魔化していたが、犯人は屋敷の精霊だ。
父も薄々は気づいているだろう。この屋敷に建て付けの悪いところなど、ないのだから。
ジルエンは納得できないと言わんばかりの様子だったが、結局何も言うことなく席について食事をとっていた。
それ以降、屋敷の精霊はジルエンに何もしていない。私の意思を尊重してくれているのだろう。
できれば仲良くしたかったんだけどなぁ。
どうしようか。
ただただ廊下を這うのが飽きてきたので、壁を這いながら図書室に向かう。
ヴァンゼス君は、今日もいるんだろうな。ほんと本が好きだよね。この屋敷に来てから毎日だよ?そんなに本ばっかり読んでたら、頭痛くなりそうだけど大丈夫かな、と天井にひっつきながら考えていると進行方向にジルエンを発見した。
ジルエンくんだー。
姿勢良く歩いてる彼の服装チェック。白のシャツに赤い宝石がついたループタイ、濃紺のベストと半ズボン、編み上げブーツ。
別に何の意図もないが、チェックする。
そして、ジルエンの目の前へと落ちた。
ポテンと。
「……!?」
数秒間の沈黙。
お互い相手から視線は外さない。どのような行動に出るかわかりませんからね!
「…………っ」
ジルエンが私を睨みつける。完全に怒っているので、こちらも『あぁ~ん?』といった感じでジルエンくんの足先から頭までを睨みつけ、踏ん反り返った。
ピキリとこめかみに青筋を立てて、冷ややかに見下ろしてくるジルエン。
「なあ、お前の母様、両親のもとに帰ってるんだって?」
なんだなんだ、母?
帰ってるけど、それがどうかしたの?
私はしゅっしゅと強弱をつけて、反復横跳びをして煽った。準備万端である。かかってこーいっ。
「お前のその姿に気味が悪くなって、逃げたんだろう?」
告げてくる言葉には、悪意が含まれていた。嘲笑うかのように口端を引き上げ、侮蔑の眼差しを送ってくる。
私は、体を硬直させた。
こ、こ、こ。
子供なのに、悪い大人みたいな表情をするなんてー!
どこでそんな表情覚えたの!言ってみなさい!
ブルブルと体を震わせる私に、何を思ったのかジルエンは更に笑みを深めた。
「正解か。まあ、その姿じゃな」
母は確かに、親の住むお屋敷に帰っている。
私に対して過保護になりすぎてしまい、よく体調を崩すようになったため、父が見かねて療養のために帰すことにしたのだ。
母は大泣きしながらも、最終的には父に従い故郷へと帰っていった。
はは、元気かなぁ。ちゃんとご飯食べてるかなー。
「父親の方には好かれてるみたいだが、いつまで愛情をもらえるか分からないな?明日には嫌われてるかもしれないぞ」
様子を見にいけたらいいんだけど。
連れてってくれないかなぁ。
ちち忙しそうだし、無理かも。
「なあ、繭から出てこいよ。それとも、醜いからそこから出てこないのか?」
でも、一応伝えてみようかな。
もしかしたら都合つけてくれるかもだし!
「なにか反応しろよ。おい!」
うんうん、と頷いて前を見るとジルエンの顔が近くにあって、驚いた私は体を反らせた。
君一体いつ距離を縮めたの!?瞬間移動した?
彼がどうしても私に反応して欲しいみたいだったので、胸元目掛けて強めの頭突きをお見舞いしてあげた。
どすっ、と音が鳴る。
突然だったため、ジルエンは反応できずに尻餅をついた。その隙にピョーンと飛んで、少し離れたところに着地した私。
目を見開いてこちらを見てくるジルエン。予想外だったのだろう。
痛みを感じたのか、胸元に手を置いている。
基本的にこの繭は柔らかいが、硬くすることも出来る。シュリンに頭部分だけ硬化してもらったので、かなりの衝撃がきただろう。
「…………」
ゆっくり立ち上がったジルエンは、私を再度睨んで、踵を返した。
ジルエン。
なんでそんなに怒ってるの?
なにが気に食わないの。
窓から外を眺め、苦しそうに、辛そうに佇んでいたジルエンの姿を、ふと思い出す。
なにを思い悩んでるの。
私は、寂しそうな後ろ姿を見送った。




