2リルの代わりに繭がいた
「うっ……」
微かな声に、ホーファードがそちらへと視線を向けると神官が目を覚ましていた。
痛めた肩を手で押さえている。
「大丈夫ですか?」
「ええ…、こちらは大丈夫です。貴方は」
「問題ありません」
見た限り招いた客人も無事のようだと、ホーファードはホッと安堵の息を吐く。
「彼女は……ーーーー?」
神官の開かれた口は閉じられることはなかった。
視線の先には光る小さな存在がいて、神官を見ている。膝に座って足をぶらつかせるもの、バンザイをしたまま飛び跳ねているものもいる。
「!? ……ーー嘘、でしょう? まさかあなたたちは……シュリン、なのですか?」
穴が空いてしまうのではないかと感じられるほどに熱心にソレを見ている神官の声は、驚きと動揺を隠しきれなかったようで僅かに震えている。
聞いたことのない名がホーファードの耳に届き、目を見開いて身を乗り出した。
「神官様は、コレを知っているのですか!?」
「はい。見るのは初めてですが。……私だけでなく、いま生きている人間で見たものはいないでしょう。数百年の間で、おとぎ話の存在となってしまったものたちです。……名はシュリン。大地の精霊といわれており、昔は人の前にもさまざまな姿で現れていたようです。どの姿でもこのように白く輝いているのが特徴ですね」
「シュリン……大地の精霊」
ボソリと呟いたホーファードが足元のシュリンを見ると、懸命にどこかを指差ししていた。
「………っ、リル!」
指し示された先はリルがいるベッドだと気付いたホーファードの足が動く。
「動く……」
手を握ったり閉じたりと確認した後、慌ててリルの元へ向かったホーファードに続き、神官も立ち上がってベッドへと近付いた。
煌々と輝いていたシュリンは消えていた。
リルもそこにはいなかった。
代わりに、シーツの上には白くて楕円の形をした繭のようなもの。
「リル……?」
声に反応したのは偶然か、繭がモゾリと動いた。
「り……リルなのか?」
恐る恐る両手を伸ばしたホーファードは、繭を優しく掴んで持ち上げた。ふわふわしていて柔らかな繭は暖かく、力を入れすぎると潰してしまいそうで恐ろしかった。
目は涙で滲んでいた。何故泣きそうになっているのかホーファード自身にも分からなかった。あまりの衝撃に涙腺がおかしくなってしまったのか。娘がこんな姿になってしまった事実に心が悲鳴を上げた所為か。
「私が気を失っている間に何が起きたのですか?」
神官は落ち着いた声音でホーファードに問いかけた。
「リルが泣き出したのです。そのあとシュリンが……現れて。次々に、泣いているリルに、覆い被さって……」
赤子の時と同じように、ホーファードがリルを腕に抱き、途切れ途切れになりながらも言葉を告げる。
神官は顎に手を添え、目を瞑り、暫し沈黙した後に深く息を吐いた。
「では、お子様の今の状態にシュリンが関わっているのは間違いないですね。……シュリンと対話できれば良いのですが、残念ながら私では声を聞くことすら叶わないでしょう」
神官は真剣な眼差しをホーファードに向けて口を開いた。
「聖者様にこちらへ来て頂きましょう。彼の方ならば、シュリンと対話できるかもしれません」




