14シロツメクサとシュリン
私はシュリンにそう伝えてみた。
すると、なんということでしょう。
にょきにょきと繭と同色の白い手が、足が、生えてくるではありませんか。
「へ? ……リル?」
顔を上げたジョントが私を見て、驚きの声を上げる。
「お、お嬢様?」
テプトアも声を上擦らせながら目を見開いてこちらに視線を送っていた。
指のない棒のような短い手、そして同様の短い足が繭に生えている。私はよろりと立ち上がり、頭を下に向けてその手足をじーっと見下ろす。
手をぴこぴこと動かす。
足も前へ後ろへと動かしてみる。
生えたけど、なんかチガウ。
「ぶははははっ! ど、どうしてそうなったっ腹が捩れるっ! ……くくっ、なんで、手と足、ぷっ……ふく、はっっ生えたんだ?」
いやぁ、服を着られるようにね?
うん、生やしたんだけど。
複雑な心境のなか、私は走り出した。テーブルから降りて周りをあちこち走っていると、ついにジョントは耐えられなくなったのかお腹を手で押さえて笑い出す。
テプトアは、とそちらを見やると何故か頬を染めて口元を手で覆っていた。
「なんて、可愛らしい……」
空耳が聞こえたのでダッシュで逃走した。
…………ん?
少し離れた先にキラキラと光る何かがあり、気になったのでそちらへと小走りで向かう。
道を外れたそこには、クリスタルのような美しいシロツメクサが生えていた。
白い花は透明度が低いが、茎も、周囲の緑色の三つ葉のクローバーも全てが透き通っていて、これが本当に草なのかとまじまじと見ると茎の中の気泡がフワフワと上に向かって流れているのが見て取れた。煌めく気泡は白い花や三つ葉の中に溜まって弾け、循環しているかのようにまた茎を通って下へと落ちていった。その様子はまるで生きているかのようで、見るものに生命力を感じさせる。
夢中になって観察している私の後ろから、歩く音が近付いてきた。
「リルお嬢様?」
「急に走っていくなよ、……どうした?」
ジョントとテプトアの方を向き、再び綺麗なシロツメクサを見て手で指し示す。
「なんだその花。すっげぇ綺麗だな」
「見たことのない花ですね?葉も面白い形をしてます」
だよね、綺麗だよね!
あれ、二人とも知らないの?なんだろ、新種?
二人が花や草に詳しくないだけかもしれないし、後で庭師さんに聞いてみようかな。
短い手を伸ばして花の部分を触ってみる。柔らかくはなさそうだ。
根元にちかい茎に手の先をひっつけて引っ張ると、パキン、と軽い音がした瞬間、簡単に折れてしまった。
折れた先からはなにも滴ってこない。気泡も消えていた。
あれ、中に水分が含まれてると思ってたんだけどな。
まあいっかっ。
わぁ、お土産ができた。父にあげよーっと。
三つ葉のクローバもいくつか摘み取り、他にも生えてる場所があるかな、と周囲を見渡し、辺りを走って探したが、結局先ほど見つけたところにしか生えていなかったので二人の元へと戻る。
「おかえりなさいませ。探しに行ってたんですか?」
テプトアにコクリと頷く。
ここだけにしかないのか。
もっといろんな場所に生えてたら周りの花たちの引き立て役にもなるし一緒だと綺麗さが増すのになぁ。
陽の光を浴びた海面のように、まばらに光り輝くシロツメクサの前で眺めていると、ほわっと空気が揺れ、私の横にシュリンが現れた。
ん?どしたのシュリン。
「うわ、なんだこいつら!」
次々と私たちの周りに現れるシュリンに視線を向けるジョントの目は、忙しなく動いている。
「これは……、シュリンですか? 以前、旦那様が話してくださいました。リル様が誕生した日に現れた光る赤子、大地の精霊の特徴とコレらは一致します」
「シュリン? こいつらが……」
ジョントもシュリンの存在を父から聞いたことがあるようだ。興味津々にシュリンを見てるよ。
『リル、リル。コレ。たくさん、はえたらうれし?』
横にいたシュリンが首を傾げシロツメクサを指差す。
え?
まあ、生えたら嬉しいなぁって思うよ?
可愛いよね、シロツメクサ。
私が返事を返すと、シュリンはバンザイをしてぴょんっと飛んだ。
『わかったー』
シュリンがそう言った次の瞬間。
風が周囲に渦巻いて上空へと吹き上がり、ざわりと木々の葉や花が大きく揺れた。
そして、地面から沢山の光の粒がぶわりと溢れ出し、庭全体を舞い始めた。
えぇぇぇーーーーー!?
なに、何が起こってる?
「ッ……リル! シュリンに何を言ったんだ!」
シロツメクサ生えたら嬉しいって言いましたー!
「リルお嬢様!」
テプトアが慌てて私を抱き上げ、ぎゅっと抱きしめる。
その間にも光の粒は増え続け、シュリンたちはというとバンザイをした状態で突っ立っていた。
木の枝の上で、芝生の上で、ガゼボの周りで、私達のそばで。
パキパキと氷が割れるような音が鳴ったその時、目に見える範囲に一斉に透き通った茎と葉が生え始め、白い花が咲き乱れる。
小さな可愛い大きさのものもあるが芝生しかない開けた場所には大人の背も追い抜くほどの巨大なソレが見事に生えていた。
わお、大変よくお育ちになって。
庭の異常事態に気付いた使用人たちがこちらに向かってくる。その後ろには、ジルエンとヴァンゼスもいた。
途中で何かに気づいたのか立ち止まる。驚愕に目を見開き、巨大なシロツメクサを見ている二人は、その存在感に圧倒されたのか体を硬直させた。
ジルエンがパクパクと口を開いたり閉じたりしている。言葉も出なくなるよね。
大きすぎるもん。
使用人の人達も同じ反応してるし。
「リル、もしかしてシュリンに綺麗だからたくさん生やしてほしいとかお願いしたか?」
お願いはしてないよっ、生えたら嬉しいなーって伝えただけだよ!
……それがお願いしたことになるのなら返事はイエスだなぁ。
私はゆっくりと頷いた。
はぁ、っとため息を吐いたジョントがテプトアに目配せする。
「ホーファード叔父上に知らせたほうがいい」
「承知いたしました」
テプトアが私を抱えたまま屋敷へと走る。
なんか大事になってきた……。




