13ジョントとかくれんぼ。テプトアもいるよっ
その後、何冊か絵本を朗読してもらった。ハッピーエンドもあって安心したよ。
読むの大変だったよね、ヴァンゼス君ありがとう!
読書を終えたヴァンゼスと私が本を元の場所へと戻していると、テプトアがやってきた。食事の支度が整ったことを伝えにきたようだ。
私達は三人で食堂へと移動する。
食堂にはすでに父とジョント、ジルエンがいて席についていた。私も自分専用の椅子へと乗せてもらい、さあご飯食べるぞっ、……とはならず。
食事に手をつけることのない私を父が心配そうに見つめていたが、その後もどうにも食べる気にならずテプトアに私の部屋へ連れていってもらった。
うーん。
ソファで力の制御の訓練をしながら考える。
絵本の続編のこと、ではない。
ジルエンとヴァンゼスのことだ。
ジョントとはかなり親しくなったと思う。もともと好意的に接してくれていたし、ジョントはお兄ちゃんっぽくて一緒にいて安心できる。
しかし、問題なのはあの二人だ。
ジルエンとヴァンゼスに共通して言えることは、何かを抱えている、ということ。
それが解決しない限り、二人に一線を引かれたままの状態から変わらないような気がする。
図書室に連日通い、本に異常な執着をみせるヴァンゼス。表紙を見るに、魔法に関するなにかだと思う。文字が読めないのが痛いなぁ。
絵本の内容とヴァンゼスが言った言葉から考えると、ヴァンゼスは魔力があまりなくて、王子のように魔力を増やすためにその方法を探してる?
あるいは、後継者問題か。
ヴァンゼスは公爵家の三男だ。上二人がいる限りヴァンゼスが当主になることはない。ただ、物凄い力を持っていたならどうだろう。
強力な魔法を使えるようになれば、公爵家を継げる可能性がでてくるのでは?だから本から知識を得ようとしている。
でもなぁ、ヴァンゼス君そんな野心があるような感じの子じゃないんだよなぁ。
ジルエンは、とにかく私が嫌いだ。
私を繭から出したがってる?なんのために?
眠気が私の思考を遮る。
「リルお嬢様、そろそろ寝るお時間ですよ」
ひょい、と抱えられてベッドへと連れていかれる。ああっ、まってまだ考え中ー!
シーツの上に乗せられた私はうねうねと体をくねらせた。
「だめです。はーい、寝ましょうねー」
ポンポンと体を優しく叩かれていると、眠気に抗えなくなってきて動きが鈍くなる。
「おやすみなさいませ、リルお嬢様」
ブランケットをかけてくれたテプトアが室内の明かりを消して、静かに部屋を出て行った。
考えても分からないし、寝よう。
あれ、そういえば力の制御の訓練してたよね。
ん?なんか上手く流れてる気がする。自分で制御でき、てる?
だめだ、眠くてもう頭が働かない。
おやすみなさーい。
私はすやすやと眠りについた。
♢♢♢
「リルー、どこにいるんだー?」
庭園にジョントの声が響き渡る。
朝になりました。ただいまかくれんぼの真っ最中です!
可愛い花たちを観客に、私は木の上に登り、枝に生い茂っている葉を利用して隠れる。
くくく、ここならそうそう見つかるまい。ジョントは、あそこか。どこを探してるんだね?私はここだ。
ジョントは懸命に下の生垣付近を探している。スタート地点は私の部屋。ジョントは屋敷を探し歩いて、ようやくここに辿り着いたのだ。
私は隠れる場所を適度に変えている。
卑怯だ。動くべきじゃない。
なんとでも言うがいい。
見つからなければ私の勝利だ。
私は体を震わせ、心の中で高笑いをする。
性格が悪すぎる。残念な生命体だ。
「ここかー?」
かくれんぼ中に「はぁい、ここでーす!」と言うものはいないよ、ジョント君。
しかし、私の身体はスリルを求め動き出す。
どこまでだと、みつからないか。
そのギリギリを楽しもうと、シュリンの糸を枝にひっつけてたらーんと降下した。
ガサリと葉の擦れるわずかな音に反応したジョントが、瞬時に振り返りこちらを見た。
し、失敗したぁーーーー!
「み・つ・け・た」
うわーーーーー!ホラーテイストで言わないでっ!ハイライトの消えた目で見ないでー!
ぶらんぶらんと左右に大きく揺れながら逃げようとする私を、ジョントはそっと捕まえて腕に囲う。
「ははっ、リルは単純だな。簡単に引っかかる」
まさか、声をかけたのはわざと、ですか。
私の行動を予測して、声をかければ出てくると、そう踏んでたのか。
な、なんて策士だ。完全なる私の敗北に、へこっと頭を下げて萎れる。
そんな私を優しく撫でるジョントはいいお兄ちゃんだ。
「ところで、あそこにいるのってリルの侍女だよな。さっきからこっちをじっと見てるんだけど……俺、睨まれてないか?」
ジョントの視線を追った先には、テプトアがいた。
木に体を半分隠れさせ、幹を爪でガリガリと削りながらこちらを血走った目で見ているテプトアが。
テプトアはね、一緒に遊びたいけど我慢して見守ってるんだよ。睨んでるんじゃないよー。
私が三人と交流する時、そばに侍女や使用人がいたら気になるでしょ?
だから三人が滞在している間、テプトアは一時的に専属侍女の任を解かれ、使用人は最低限の接触に止めるように、と父に言われているのだ。
だからああして遠くでこっそりと見張って、いや、見守っているのだ。
「なんか、目つき怖ぇんだけど」
嫉妬の眼差しで浮気相手の男を睨みつけている女性、ではない。断じてない。
しょうがない。仲間に入れてあげよう、ジョント君。
私はジョントの腕の中を飛び出してテプトアの元に向かった。
はっとした表情をして、私の侍女が木の裏から姿を現し、一歩、二歩、と足を進める。
ほら、こっちにおいでよ。一緒にかくれんぼしよ?
テプトアの目の前でぴょんぴょん跳ね、くるりと方向転換してジョントの方へと向かう。途中で振り返り同じ動作を繰り返していると、ぱあぁぁ!と侍女の目に光が灯り、喜びの笑顔を浮かべて後をついてくる。
かわいいなぁ。
「なんだ、そういうことか。えーと、確か名前は……」
「テプトアと申します」
「そうだ、テプトア。俺の名前は知ってるとおもうけど一応。ジョントだ」
「ジョント様、私も混ぜてもらっても宜しいでしょうか」
「ああ、いいぜ」
「ありがとうございます」
テプトアが頭を下げる。
ジョントはうーん、と顎に手をやり考えていたが、近づいた私を両手で捕まえて抱き抱える。
「今度はリルが見つける番な。俺とテプトアが隠れるから、目を瞑って百秒数えたあと、探しに来てくれ」
こくりと頷いた私に、にっこりと笑ったジョントが芝生へと私を丁寧に下す。
「じゃあはじめ!」
二人が動き出したので、シュリンに目を閉じてもらう。
そして、いーち、にーい、さーん、と数を数えはじめた。
♢♢♢
「リル、探すのうますぎ」
「流石でございます、リルお嬢様」
二人は簡単に見つかった。
テプトアは……私のすぐ近くにいた。
近くで見つけてくださいと言わんばかりに、私に熱視線を送る侍女は、もはや隠れることを放棄していて。残念な子は、そそくさと回収しました。
ジョントは庭園から少し離れたところにある庭師が使っている小屋に隠れていたので、外から窓にべったりひっついてゴンゴン、と叩いて見つけたことを知らせてあげた。
怖がられた。
さっきの仕返しである。くくくくっ。
「ちょい休憩な」
ガゼボにある椅子に座り、テーブルに突っ伏したジョントに続き、私も飛び上がってテーブルにぱたりと寝そべった。行儀の悪さで私に敵うものはいない。
テプトアは傍に控えるように立ち、そよりと吹いた柔らかな風を浴びていた。
ふわり。侍女服の長いスカートが揺れ、靡く髪を手で押さえ、指先で耳にかける。
女性的なその仕草に、私はドキリと胸を高鳴らせ……たりはしなかった。
が、美人だなぁとテプトアの顔を見つめる。
ジョントを見ると、目を瞑っていた。
寝てる?
暑かったのかシャツの袖口を肘まで捲り、襟元は寛げられている。
艶々とした短い黒髪がさらりと流れ、見えた旋毛を無性に押したくなった。いい旋毛だ。
それにしても。いいな、服。
私も服着たい。
真っ裸なわけではないが、女の子だもん。
着飾りたくなる日もあります。
しかし、私には手も足もない。
凹凸がない。楕円形の繭だ。
着ても這ってたら脱げてしまうだろう。
…………ん?
もしかしたら、いけるかもしれない。
しゅりんさん、手足生やせる?




