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第六話

 ある日のことです。チョン君とサヨク先生が町を歩いていると、道端に一人の男が倒れていました。チョン君は別に気になりませんでしたが、サヨク先生は心配そうに男に寄って行きました。


「どうしたんですか」


 サヨク先生が声をかけると、男は苦しそうに目を開けました。


「実は、お金がなくて……三日も何も食べてないのです」


「それは……なんてひどい」


 サヨク先生はそう言うと、近くのレストランに男を連れて行き、料理を食べさせてあげました。チョン君も、ついでにごちそうになります。


「食べることもできないほどお金がないというのは、いったいどういうことなのですか?」


 食事が一息つくと、サヨク先生は男に尋ねました。すると男は突然、涙を流し始めました。


「実は、会社をクビになり、再就職しようと思ったのですが、どこも雇ってくれるところは見つからず、当てもなく町をさまよっていたのです……」


 男はそれだけ言うと、人目もはばからずに声を上げて泣き出しました。


「なんですって、それならすぐに、生活保護をもらえばいいではありませんか」


「しかし今は、審査が厳しくなっていると聞きます。それに生保をもらうのは、何だか悪い気がして」


「何を言っているのですか、あなたは」


 サヨク先生が厳しい口調で言いました。


「生保をもらうのは、当然の権利なのです。日本に住んでいるすべての人は誰だって、もらうことができるのです」


「でも、役所に行っても断られそうで……。気が引けてしまいます」


「じゃあこれから行きましょう。私もついて行って差し上げます。あなたがあのまま死んでいれば、それは国家による殺人です。あなたに生保を与えないと言うなら、私が相手に人殺しと言ってあげます」


 こうして、サヨク先生は男を役所に連れて行った。役所の人間がサヨク先生に気付くと、生保の手続きはあっさりと済みました。

 男は何度もサヨク先生に礼を言うと、去って行きました。


「どうして、すんなりと手続することができたんですか?」


 チョン君が、サヨク先生に聞きました。


「実は、これが初めてではないのです。今まで何度も、同じようなことがありました。私は役所が生活保護を断ったと聞けば、すぐに飛んで行って抗議してきたのです」


「さすがサヨク先生。とても良いことをしているのですね」


「それほどでもありません。当たり前のことをしているだけですよ」


 *


 男は自分のアパートに帰りながら、ふと疑問に思いました。どうして役所の人間は、あっさりと手続きを済ませてくれたのだろうか、と考えたのです。食事をおごってくれた、あの優しい人に気付いた途端、役所の人間の態度が急に変わったのです。


「もしかしたら、すごく偉い人だったのかもしれない」


 男はどうしても知りたくなりました。だから、役所に戻って来ました。

 もちろんサヨク先生とチョン君はもう帰っていましたが、役所の人間は、こっそりとあの人の正体を教えてくれました。


「私だって本当は生活保護をすべての人に出してあげたい。でも財源がなければどうしようもないのです。でも、あのサヨク先生は、その事情を考えてくれません。断ったことが知れれば、まるで嫌がらせのような抗議が集団で押し寄せるのです」


 しかし役所の人間の説明は、男の耳に入っていませんでした。男にとって、サヨク先生は、実はこの世の中で一番、憎んでいる人間だったのです。


(くそっ、俺が仕事を無くしたのだって、サヨクがチョンと手を組んで日本を不況にしたからじゃないか。それをなんだ。あいつはまるで俺を助けてやったかのように振る舞いやがって)


 男は、生活保護なんて返してやろう、と思いました。しかし、明日から食べていくお金は、相変わらずないのです。


(俺はサヨクに食事をおごられた。そして今、あいつと同じ側の人間になろうとしている。あいつの仲間にならなければ俺は飢えてしまう。しかし、この日本にサヨクとチョンさえいなければ、こんな世の中にはもともとなっていなかったんだ。


 ああ、俺はどうすれば、どうすれば、どうすれば……)


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