第五話
「サヨク先生、僕はもう我慢できません。最近の日本人はどうしてしまったのでしょう。なぜ日本にこんなに右翼が増えてしまったのでしょうか」
いつものように、チョン君がサヨク先生に言った。先生は、いつもなら穏やかな顔で、「そうですね、チョン君」とでも言うのだが、今日のサヨク先生は違っていた。とても真剣な、そしてどこか思いつめた表情をしていたのだ。
「チョン君、このままでは日本は取り返しのつかないことになってしまいます」
サヨク先生が言った。その眼はチョン君ではなく、どこか遠くに向けられていた。
「今、この国を変えないと、完全に終わってしまいます。チョン君、日本を変えるために、どうか協力してほしいのです。もちろん、簡単なことではありません。しかし、必ずやりとげるのです」
「もちろん、僕にできることなら、なんだって協力しますよ。一緒に右翼を退治しましょう」
サヨク先生の様子がいつもと違うことにチョン君は気づいていたが、特に気にしなかった。サヨク先生と言えども、チョン君にとっては日本人であり、利用できればそれでいいと考えていたのかもしれない。
次の日、チョン君の家のチャイムが鳴った。玄関のドアを開けると、サヨク先生が顔を出した。
「サヨク先生、どうしたんです。その恰好は」
サヨク先生は、頭にヘルメットをかぶり、顔にはマスクをしていた。そして作業服のようなものを着て、手には角材を持っていた。
「チョン君、今から革命を起こすのです。一緒に来てください」
サヨク先生の眼は血走っていた。
「どうしたんです。ちょっと落ち着いてください」
「今、動かなければ、手遅れになるのです。さあ」
サヨク先生が、チョン君の腕を引っ張った。そのまますごい力で、家の中から引き出された。そして、チョン君は驚愕した。
家の前に、サヨク先生と同じ格好をした人たちがたくさん集まっていたのだ。
「これから、国会議事堂を占拠します。そして、この国に革命を起こすのです」
「そ、そんな無茶な。警察に止められるに決まってます」
サヨク先生は鼻で笑うと(マスクをしていたので、音が聞こえただけだった)、仲間に段ボール箱を持ってこさせた。その中には、大きな缶詰のようなものが入っていた。缶詰からは、何本かのコードが出て、小さな機械につながっている。
「これは、爆弾です。半径五十メートルくらいならこれでぶっ飛ばせます。これで脅せば、議事堂に入れると思います」
「で、でも、これが爆発したら僕らだって……」
「もちろんそうです。でもそれによってこの国は変わるでしょう。これを爆発させるような力がなければ、もうこの国はどうしようもない」
そして、サヨク先生はチョン君の腕を引っ張った。チョン君は離れようとしたが、近くに来ていたサヨク先生の仲間に両側から体をつかまれた。
「い、いやだ。僕は死にたくないっ。誰か助けてくれえーっ!」
「チョン君、これは聖戦なのです。あなたはこの国に差別された聖人として、我々の象徴になるのです」
「いやだー。いやだー。誰かーっ!」
気づくと、チョン君はベットの上で大声を出していた。全身に汗をかき、パジャマはびしょ濡れだった。
「夢だったのか……」
*
チョン君は考える。なんて日本人は恵まれているのだろう。僕たちが優しい人間だから、日本人はテロを起こされずに呑気に暮らすことができている。つまり日本人は僕たちに甘えているのだ。そのくせに、感謝の気持ちは少しも持っていない……。




