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3 死の先に  後編


リディアは目を瞬かせたあと、困ったように笑った。

「どうしたの、その顔」

 その瞬間。

 セラの目から、大粒の涙が溢れ落ちた。

「……おかあ、さん……っ」

 声が震える。

 喉が痛い。

 うまく呼吸ができない。

 リディアは驚いたように目を見開いた。

「セラ?」

 次の瞬間。

 セラは立ち上がり、母へ縋りついていた。

「……っ、おかあさん……!」

 ぎゅっと服を掴む。

 温かい。

 生きてる。

 ちゃんとここにいる。

 その事実だけで、胸の奥が壊れそうだった。

 リディアは困惑したように娘を見下ろしたあと、そっと背中へ手を回した。

「どうしたの……?」

 優しい声だった。

 昔と変わらない声。

 その瞬間。

 セラの中で、何かが決壊した。

「死んだの……っ」

 掠れた声が落ちる。

「みんな、死んで……っ」

 息が乱れる。

「エリアス様が……毒で……っ」

 頭の中へ、あの光景が蘇る。

 崩れ落ちる身体。

 床へ広がる赤黒い染み。

 フィアの悲鳴。

 レオの怒鳴り声。

「わたし、わたしが……っ」

 吐きそうになる。

 リディアの服を掴む指へ力が入った。

「私のお茶で……っ、エリアス様が……!」

 違う。

 違うのに。

 でも。

 頭の奥で、何度も同じ声が響く。

 ――お前のせいだ。

 ――お前が壊した。

「……っ、いや……っ」

 セラの身体が震える。

「怖かった……っ」

 ぽろぽろ涙が零れる。

「みんなの目が……っ」

 疑い。

 恐怖。

 絶望。

 あの冷たい空気。

「私、本当に死んだの……!」

 毒を飲んだ。

 喉が焼けるように苦しくて。

 息ができなくて。

 身体が冷たくなって。

 確かに、死んだはずだった。

 なのに。

 どうして。

 どうしてまた、ここにいるの。

 リディアは何も言わなかった。

 ただ、震える娘を抱き締めている。

 その腕が少しだけ強くなる。


リディアは何も言わなかった。

 ただ、震える娘を静かに抱き締めている。

 その腕が少しだけ強くなる。

「……夢を見たのね」

 静かな声だった。

 けれど。

 その響きに、セラは違和感を覚えた。

 まるで。

 “知っている”人の声だった。

「……夢じゃ、ない……」

 セラは震える声で呟く。

 夢じゃない。

 あれは。

 夢なんかじゃない。

 エリアスは死んだ。

 レオは叫んでいた。

 フィアは泣いていた。

 そして自分は、毒を飲んだ。

 苦しさも。

 恐怖も。

 全部、まだ身体に残っている。

「……私、本当に死んだの……」

 掠れた声が落ちる。

 その瞬間。

 リディアの瞳が、僅かに揺れた。

 まるで、遠い昔を思い出すように。

「……そう」

 小さな声だった。

「夢見は、強い痛みを伴うの」

「……え……?」

 セラが目を見開く。

 リディアはゆっくり目を伏せた。

「死の恐怖も」

「失った絶望も」

「全部、本物みたいに残る」

 静かな声だった。

 あまりにも、実感がこもっている。

 セラの呼吸が止まる。

「……どうして……」

 掠れた声が零れる。

 リディアはすぐには答えなかった。

 ただ、セラの髪をゆっくり撫でる。

 その手つきは、どこか壊れ物を扱うように優しかった。

「……私の母も、同じだった」

 そして。

「私も、一度だけ戻ったことがあるわ」


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