21.久しぶりのペール
演奏を終え、大広間で来賓の人たちに声をかけられたり囲まれたりして部屋に戻った時には、リヒーナはくたくたになっていた。
男装しているので下手にしゃべるわけにもいかず、応対はすべてルッチェがしてくれたのだけれど。
「はぁー」
疲れた、とリヒーナは大きく息を吐き出した。
ルッチェも、話は明日だとりあえず今夜は休もう、といって自室に引き上げて行った。
シャルマイを寝台脇の小卓の上にそっと置き、バタンと寝台の上に倒れ込む。
耳の奥では、まだ今日の演奏の名残が残っているような気がして、リヒーナは目を閉じる。
そのままうとうとしていたのかもしれない。
ぎし、という軽い音が近くで聞こえてはっと目を開けると、すぐそこに淡く澄んだ碧眼があった。
「え、え⁉」
幻でも見ているのかと瞬きをしてみるけれど、目の前にあるペールの姿は消えない。
「なんだ。寝てたのか」
寝台についた手で体を支えながらリヒーナの顔を覗き込んでいたペールが、目にかかっていた金髪を掻き上げながら身を起こす。
「な、ななななんでここにいるの!?」
リヒーナはびっくりして跳ね起きた。
「さっきはろくに話もできなかったからな」
見れば、ペールは大広間にいた時と同じ、近寄りがたい服装のままだ。
けれどこうしてすぐ傍で見れば、さらさらの金色の髪も、きれいな青い瞳も、額にうっすらと残ってしまった傷跡も、リヒーナの知っているペールだった。
どこも違わない。
よかった、とリヒーナは心の底からほっとする。
「そ、そうだよ! なんであんなところにいたの? これまでいったいどこでなにをしてたの? それに、なんでそんな格好してるの? めちゃくちゃ驚いたんだから」
「驚いたのは俺のほうだ。そのシャルマイ、ただ形見として持ち歩いてるわけじゃなかったんだな。さっきの演奏は見事だった」
「あ……ありがと。ペールにそういってもらえると、嬉しいよ」
猛練習した甲斐があった。
「ああ、本当に驚いた。ヴィエルも踊りも、宮廷に売り込むにはいまひとつだと思ってはいたけど、こういうわけだったんだな」
「いまひとつ……」
失礼なことをさらりというところも変わっていない。
まあ、本当のことだからいい返せないんだけど。
「おまえのシャルマイ、本当によかった。ルッチェも、前から安定してはいたけど、更に腕を上げてたな」
「猛練習したからね」
「なるほどな。……そこで、ひとつ提案があるんだ」
「な、なに?」
「働き口を紹介してやる」
「え、本当に!? あれ、でも、メーセン侯爵じゃなくて……」
「侯爵もすごく褒めてたな。ぜひうちの宮廷に、っていってくれてた。でも俺が断っておいた」
「え!? どうして!」
「おまえたちは、バロウ宮廷で雇うからな」
「バロウ?」
それは、かつてペールの父親の領地だったはず。
「先の諸侯会議で侯爵がうまくやってくれたんだ。父さんの無実は証明され、父の公爵位を俺が継ぐことになった。その下準備やなんかがあって、ずっとどたばたしていたんだ」
「ペールが公爵……。え、ペールが公爵!?」
リヒーナは目を瞠り、驚きのあまり繰り返した。




