19.届かない言葉
メーセン侯爵がリヒーナにあてがってくれた部屋は、これまでに見たことのない広さと豪華さを兼ね備えていた。
その部屋で、リヒーナは宴までの期間、徹底的に練習をすることができた。
紹介してもらった以上、最低でもペールに恥をかかせないようなものを披露しなければならない。
もちろん、最高にいい演奏をして、メーセン侯爵に認めてもらいたいという気持ちも強い。
その為にできることは練習しかなかった。
けれど練習の時間はリヒーナにとってとても楽しいものだった。
食事や身の安全の心配をせず、練習に没頭できるなんてすごく贅沢だ、とリヒーナは思うのだ。
個人練習のあとは、ルッチェと一緒に練習をする。
ルッチェも、朝から夜まで音楽のことだけを考えられる生活を喜んでいるようだった。
なんだかんだいっているけれど、ルッチェももちろん楽器の演奏が大好きなのだ。
けれどひとつだけ、リヒーナには気になることがあった。
メーセンに着いたその日以来、ペールと全く会っていないのだ。
同じ敷地内にいるのなら様子を見にきてくれてもよさそうなものなのに、一度も部屋を訪ってはくれなかった。
リヒーナのほうから会いに行こうにも、いったいどこにいるのか見当もつかない。
耳をすませればたまに楽器の音が聞こえることもあるけれど、それはペールの奏でる音とは違った。
「ペールに会いたいな……」
一緒に旅をした時間はほんのわずかだったけれど、それなりに仲良くなれたと思う。
――仲良くなれたと、そう思っていた。
けれどペールにしてみれば、リヒーナたちのことは迷惑以外のなにものでもなかったのかもしれない。
嫌がるペールを押し切ってついてきてしまったのだし。
そう考えると、リヒーナの気持ちは一気に沈んでしまうのだった。
*****
マジェームが公爵位を剥奪されるらしい、という噂をリヒーナが聞いた翌日、メーセン侯爵が無事諸侯会議を終えて戻ってくるという報せが届いた。
メーセン侯爵が無事で、マジェームが公爵でなくなるということはつまり、侯爵がマジェームの企みを退けたということだろう。
きっと、ペールがレヒテンで集めてきた情報が大いに役に立ったに違いない
ペールはメーセン侯爵を守り、父親の無念を晴らすことができたのだ。
「よかったね、ペール」
自室の窓辺に置いた椅子に腰かけ、月に向かってそっと呟いたリヒーナの言葉は、けれどペールには届かない。
今頃、ペールはどこでなにを思っているんだろう。
宴は、数日後に迫っていた。




