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17.戦闘

「ぎゃ――――っ!」


 リヒーナが自分の気持ちに気づいて困っていると、ふいに夜闇を引き裂く悲鳴が響き渡った。


「ルッチェの声だ!」

「おまえはここにいろ」


「え、やだよ」

「一緒に戻ったらおまえまで危険な目に合うかもしれないだろ」


「ルッチェの危機なら、放っておけないよ。ルッチェはわたしのたったひとりの家族なんだから」


 ペールは小さく嘆息すると、わかった、と頷いた。


「ただし俺の後ろにいろ」

「うん」


 急いでルッチェが寝ているはずの場所へ引き返す。

 その付近では、複数の人影がせわしなく動いていた。


 一、二、三、四、五人。


 ルッチェひとりで四人を相手にしてるということだ。


「ルッチェ!」


 無事を知りたくて名前を呼ぶ。 


「俺は大丈夫だ。ペールも一緒か? ペール、リヒーナを連れてここから離れ――」

「助勢する!」 


 ルッチェの台詞を無視すると、ペールは短く宣言して人影に突っ込んでゆく。


 あとを追いながら、リヒーナは状況を観察する。


 どうやら木を背にしたルッチェを四人が囲んでいたようだけれど、ペールの登場によって敵の注意がそちらに逸れている。


 ペールが懐からなにかを取り出すのがわかった。

 続いてギン、ガッと金属のぶつかる音。


 ぎゃあ、ぐわぁ、という男の声が続く。


 ふとした拍子に、短剣の刃が頼りない月光をきらりと反射するのが見えた。


 ペールが注目を集めた隙をついて、ルッチェが手に持ったナイフを投擲するのがわかる。

 ナイフ投げは、ルッチェの得意な芸の中のひとつだ。


 この一瞬で、勝敗は決した。


「ルッチェ、大丈夫?」

「人の気配がしたからリヒーナかと思って抱きつこうとしたら、いきなりズサッと刃先が目と鼻の先の地面に突き刺さってやがってびびったぜ」


 ぱんぱん、と服に着いたほこりを払う仕草をしながらルッチェがいう。


「たとえそれがわたしだったとしても抱きつかないで」


 とりあえずそこはしっかりと主張しておきたい。

 襲撃者たちはめいめいに手や足を押さえて地面にうずくまっている。


「なにが目的だ」


 短剣についた血を払いながら、ペールが硬い声で問う。


「白々しい。おまえがマジェームのところから盗み出した物を取り戻しにきたんだよ。わかってるんだろう?」


「え……? あなた、いったいどうして……」


 リヒーナは驚きに目を瞠る。


 右手を押さえながら顔を上げた男は、レヒテンの街から三人を逃がしてくれた馬車の御者だった。 


「てめえ話が違うじゃねえか。盗みまでやってんのかよ?」


 ルッチェがペールに詰め寄る。


「ああ、わかった。すまない、あとで説明するから少し黙っていてくれ」

「あなたのおかげでわたしたちは助かったのに……。なんで今になってこんなことするの?」


 ペールがルッチェを制しているあいだに、リヒーナは御者に訊ねた。


「あんたたちを助けた分の報酬もいただく。そんでそっちの奴が盗んだもんを取り返した分の報酬もいただく。ただそれだけのことだ」


「悪いが、マジェームからの依頼の報酬は諦めてもらうしかないな」

「まあ、この始末じゃあ、諦めるしかないだろうな」


 御者が目を閉じて空を仰ぐ。


「傷の手当てを……」


 せめてそのくらいは、とリヒーナが御者に近づこうとしたら、ペールに腕を掴まれ引き留められる。


「必要ない。深手は負わせていないからな。そっちはどうだ? ルッチェ」

「俺だってちゃんと狙って投げたぜ。深手は負わせてねえはずだ」


「というわけだ。行けるな?」

「逃がしていいのか? こっちはおまえらを殺してでもブツをいただくつもりだったんだぜ?」


「こちらはちょっとした運動につきあってもらっただけだ。そうだろ?」

「ま、そうだな。こっちは傷ひとつ負ってねえわけだし」


 ルッチェがペールの言い分にのっかる。


「そうか……。おいおまえら、動けるか?」


 御者が声をかけると、仲間たちから、おう、と声が返る。

 のそりと立ち上がった男たちが、とぼとぼと去ってゆく。


「悪かったな」


 最後に、御者が振り返らずに詫びる。


「なに別に構わねえよ。金稼ぎが大変なのはお互いさまだからな」


 かかかっ、とルッチェが笑う。


 ついさっき殺されかけたとは思えない豪快な笑い声に見送られるようにして、御者たちは姿を消した。

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