15.稼ぎ
今の自分たちには、あてがない。
である以上、少しでも可能性があるなら行ってみるべきだと思う。
「……はぁ。だいたい、なんでそんなに宮廷で働きたいんだ?」
「リヒーナに少しでも安定した暮らしをさせてやりたいじゃねえか」
ペールの問いにルッチェが即答した。
その答えを聞いてリヒーナはびっくりする。
「え、わたしの為だったの?」
てっきり、自分の能力を認めてもらいたいからとか、金持ちになりたいからだと思っていた。
宮廷仕えになってもお給金は微々たるもの、って話もよく聞くけれど。
「まあ、別にそれだけじゃねえけどさ。もちろん、自分の腕でのし上がってやるぜ! っていう野望も忘れちゃいないぜ?」
「そうだったんだ……。そんなの別にいいのに。わたし、旅をするもの好きだよ?」
「そりゃあ俺だってもちろん旅芸人が嫌になったとかそういうんじゃねえよ。でもやっぱ常に危険と隣り合わせだろ? おれにはおまえを守るっつー責任があんだよ。おじさんに頼まれてんだからよ」
「お父さんに……」
「ああ。だから、俺は宮廷音楽家を目指す。おまえが自分の実力で宮廷に雇われるならそれもよし。もしそうでなくても、俺がなんとか宮廷に入り込めればこっちのもんだぜ。ふっはっは」
入り込めたらいったいなにをするつもりなんだろう。
少し不安が過る。
「そんなのいいよ。わたしがんばるから。自分で雇ってもらえるように練習するよ。それで、これまで迷惑かけた分、ルッチェに楽させてあげる」
――それで、お菓子をたくさん食べるんだ。
妄想が広がって、思わず口元が緩んでしまう。
「……もし雇ってもらえなくても、俺を恨むなよ」
深い深ーいため息をひとつついたあとに続けられた言葉を聞いて、なんだかんだいって、ペールはやっぱりいい人だな、とリヒーナは思うのだった。
いい人だけど――。
「そこの美しい人、どうか、貴方に詩を贈らせてはもらえませんか?」
立ち寄った街で見かけた女性をつかまえて絶賛営業活動中のペールの様子を見て、リヒーナは胸がもやもやするのを感じていた。
普段はあんなに淡々としゃべるのに、リヒーナに対しては失礼なことを沢山いったりするのに、あの違いはなんなんだろう、と思う。
片膝をつき、女性の手をそっと取り、懇願するような目で相手をみつめている。
なんなのよ、もう。
「どうした? リヒーナ」
「べっ、別にっ。ただ、あんなことしなくても、ペールの詩を聴いてくれる人はたくさんいるのに、って思って」
「確かにあの豹変っぷりはすげえよなぁ。プロだぜ、プロ。その反動で普段はあんなつまらなさそうな顔してんじゃねえの? でも、宮廷の荒波を渡っていくにはああいう能力が必要ってことだろ? いやぁ、勉強になるぜ」
それはそうかもしれないけど……。
「相手が金持ちのお嬢さんなら、そのままそこの家で雇ってもらえたりするかもしれねえしな」
それはそうだけど。
ルッチェのいうことは最もだと思うのに、どうしてもすっきりしなくて、リヒーナはペールから目を逸らす。
「さ、俺らもひと稼ぎしねえと。結局レヒテンの宿に、なけなしの金を宿賃として置いて来ちまったしな」
あの宿のおかみさんにはとんでもない迷惑をかけてしまった。今度レヒテンに行くことがあれば、謝りに行こう。
「そうだね。稼がなきゃね」
そう、生きていくにはお金がいるのだ。




