9
グレイ視点
こいつの泣き顔を見るのは二度目だった。
百年に一度、魔物を産む瘴気を浄化することのできる聖女を召喚する儀式を行う必要があるというのは、このアルバドス王国民にとっては当たり前のことだった。
これが千年に一度なら歴史的な寓話だろうと思えるが、百年単位なら老人なら実際その瘴気が消えて国が平和になったのも、聖女が来たことも事実だと伝わるもんで、この国では聖女は絶対的平和の象徴だった。
聖女の護衛を言い渡されたのは聖女が召喚されて一月ほどだった。
平和な世の終わりということは、今が一番魔物が大量発生しているというのに、護衛騎士は俺一人だけだった。
「今回の聖女様は弱虫だってよ」
「ピーピー泣かれたら困るよな」
「せいぜい頑張って子守りしろよ、騎士団長様」
異世界から来て国を守るために命をかけてくれる聖女に対して舐め腐ってるのか。
国王軍騎士は地方と違って余程の大規模なものでないと魔物退治に出ない。
魔物と戦うことなく、安全圏から平和な世界になるのを待ってるコイツらを睨んなところでまた〝死灰のくせに〟と絡まれるのがオチだ。
〝死灰の騎士〟死灰と死骸と同じ音を持つ言葉。
銀色の髪だって孤児で汚く、生きようが死のうが価値のないものだということを意味するあだ名。
そんな俺を護衛につけさせる王も同じ考えなのだろう。
不安気に杖を握りしめる聖女。
本当はもっとたくさん護衛騎士がいたってよかったのに、王都は魔物の恐ろしさを紙の上でしか知らない。
こんな俺も二人旅なんて嫌だろうと先を急ごうとした。
「好きで聖女になったんじゃない!勝手にこの世界に呼んだのはあなたたちじゃない!国を救わないと元の世界に帰さないなんて脅しじゃない!やりたくなくてもやらないといけないじゃない!」
そう叫んでガキみたいに泣きじゃくる聖女を抱えて森を出る。
聖女はとても平和な世界から来たというのは見ててわかってた。
俺たちアルバドス王国民からしたら聖女というのは名誉なことだが、聖女からしたら誘拐されて命をかけろと言われて嫌々働かされてるんだということに気付かされた。
魔物の怖さを知らない王宮の人間の教本通りの教えで旅なんてこともおかしい。
それでもこいつは家族に会いたいからと努力した。
魔力のない世界からきたのに聖魔法を使えるようになってたこと。
教えたことを飲み込み走り続けたこと。
力浸かるまで浄化魔法を使ったこと。
聖女が聖女として選ばれた理由が、わかった気がする。
俺のために怒って、俺の痛みに寄り添おうとして涙を流す。
こんな俺に流す涙なんて無駄なのに。
何故か心臓の奥の方が痛くなった。




