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聖女の体液……涙や唾液、血液などは魔物にとってご馳走である。
それを聞いていたのにまた泣いてしまって、この町に魔物が来たらどうしようと思って焦った。
「町中の建物内なら相当魔物が近くにいない限りは検知されないだろう」
「よかったぁ。でも我慢強くならないといけないね」
「そうだな。あんたに……」
「グレイさんに迷惑かけられないもんね」
明日からは街を出て魔物のいるところに向かう。
怖くないというと嘘になるけど、グレイさんになるべく負担をかけたくない。
胸の前で自分の手をぎゅっと握ると、グレイさんはガタンと立ち上がった。
「明日の進路を確認してくる。あんたはここにいろ」
そう言って宿の部屋を出て行ったグレイさんは丁寧に鍵もかけていった。
ポツンと一人残されてしまうと、急に心細くなる。
部屋の窓から外を見ると、グレイさんがスタスタと道を歩いていくのが見えた。
「……怒らせちゃったのかなぁ」
少し落ち込む。
机の上に顔を伏せていると疲れも相まっていつの間にか寝落ちてしまっていた。
外から何か声が聞こえる。
ばっと顔を上げると外はすっかり日が傾いていた。
随分寝てしまったと部屋を見渡すもグレイさんはまだ戻ってきていないみたいで、私は窓の外をもう一度見る。
「死灰のくせに、お綺麗になりやがって」
「聖女様の護衛も一人で十分ってか?」
町の騎士に絡まれているグレイさんが見えた。
しがい、って何だろう。でもきっと良い意味じゃない。
「おい聞いてんのかよ」
「お高く止まりやがって、孤児のくせに」
もう、見ていられなかった。
部屋の内鍵を開けて宿の外に出る。
何も言わないグレイさんの前に出て騎士たちに対峙する。
その瞬間グレイさんが私を掴んで背中に庇った。
ちがう、私がグレイさんを庇いたかったのに。
「グレイさんに酷いこと言わないで!」
キッと睨みつけたかった。
けれどグレイさんが退かないから彼の背中から怒る。
私が聖女なことはわかるのか、居心地悪そうに去っていく騎士たちに、どうしても謝らせたかった。
「ちょっと待って…!」
ぐっとグレイさんに腕を掴まれ、宿に連れ戻された。
部屋の鍵をかけると、グレイさんが深いため息を吐く。
「なんで、言い返さないの?」
「言い返したら長引くだろ」
「でも、だからって…」
いらいら、むかむか。そんな気持ちでぐるぐるする私に、グレイさんは眉を下げてぽんぽんと私の頭を撫でた。
「俺のために怒ってくれて、ありがとうな」
ルカ、と聞こえるか聞こえないかの声量で、初めて名前を呼ばれた。
まだ怒ってるけれど、それ以上は何も言えなくなってしまった。




