㊱最後の審判
知らない男の声がした。
次の瞬間、真っ暗闇になった。
わたし、どうしたんだろう?
後ろから、誰かに突然、腕をつかみ引っ張られる。
「なに?」
「我らが父の御前だ」
ムキムキの天使に広場みたいなところに引っ張り出された。
そこは、真っ白な雲の中のような場所だ。
頭上に誰かいる。
それが、神様だとわかる。
でも、顔は、白い雲に阻まれて、見ることはできない。
「おまえ、変わってんな!」
このひとだ!
さっきの声の主だ。
「よしなさい」
「けれど、われらが父よ」
「いいのです。マリー、顔を上げてごらん」
わたしはありったけの自分の中の不良成分を総動員して、わが父とやらをにらみつけてやった。
眩しっ!
顔よくみえないし。
「そう、面白い顔をっするな、アスタロトがみたら、千年の恋も冷めるぞ」
はっ!
効果がなかった!そのうえ、ブサイクだった?
「そうそう、にこやかに。いつものように」
「いつもって?」
「アスタロトのところにいたときに始終しまりのない顔いや、ニコニコしていたろ」
「楽しかったからです」
「楽しい!!バカか!お前!!」
「やめなさい。いいのです。そうか楽しいか?」
「はい。毎日毎日、楽しかったです」
「ほう?どんなところがだ?」
「美味しご飯を三食食べれて」
「馬鹿ッか」
この天使は、口が悪すぎる。
感情が直結してしまっているせいか、我知らず睨みつけていた。
「いいでしょ!別に!あなたもわたしの立場になってみればわかるわよ!」
「どういうことだよ」
「メニューはいつもゴブリンコック長が、わたしに何が食べたいかをまず聞いてくれるの」
「そうか、そうか」
「それで、大好きなパスタをお願いし続けたの」
「お願いしつづけたぁ?」
「そう、五食つづけてパスタだったになったこともあったのよ」
「五食?」
「初日と二日目の昼までの計五食よ」
「朝から、パスタはちと、堪えるなぁ」
「あら!?神様、意外と平気ですよ。うちのゴブリンコック長は腕がいいから」
「そうかそうか、食べ物だけか楽しかったのは?」
「いいえ!どこみてたんですか?神様わ!」
「ああ、すまんね」
「あやまることないっす!この女がイカレテルんです」
「なによ!
「あまえ、ほんっと生意気だな」
「人間のくせにっていったら、差別ですよ~」
「馬鹿かっ!」
「ふたりとも、よしなさい。マリー、他にはなにかあったか?」
「悪魔の力の鍛錬も楽しかったです」
「マリーよ」
「はい」
「いくらなんでも、神様の前で嘘はいかんよ」
「嘘じゃありません!」
「そうか?」
「はい、神に誓って!!」
「一応、この場は、『最後の審判』なんだが、大丈夫か?」
「はい、神に誓って!!大丈夫です。あれは、それはそれは」
「それはそれは?」
「楽しい鍛錬でした」
「だから、馬鹿かっ!おまえは!!鍛錬が楽しいわけあるか!」
「何よ、いいでしょ別に、わたしの感じ方よ。あなたに指図される、いわれわないわよ」
「なんだと!」
「あなただって、大概よ?」
「何がだ」
「そんなイカツイ、ムキムキなのに天使の羽って?」
「なんだよ!」
「アンバランス!」
「いいだろ、天使なんだから!」
「まぁまぁよしなさい、ふたりとも」
「だって!!」
「鍛錬は、楽しかったか?」
「はい。人間の時にはできなかったことが、いろいろできるの」
「例えば?」
「種を見ただけで、何色のどんな花の種かわかるの。すごいでしょう?」
「何の役にたつんだそれが!?」
「あら!?天使さんにはわからないの?」
「何がだ?」
「花壇をデザインするときに役にたつわ」
「くだらなっ!」
「植物の相互作用に役立つから、農薬を使わなくても害虫を寄せ付けない組み合わせもわかるわ。例えば、バラのそばにニンニクを植えると、バラに虫がつきづらいとか。いい種もみかの判断もつくわ」
「……」
「ズームができるから、遠くの人や天候を読みやすい。それから」
「もういいよマリー」
「神様?」
「アスタロトは、悪魔だ。お前が言っていたように、詳しく言えば、堕天使だ」
「知ってます。本で、アスタロト様の蔵書で読みました」
「理由は、詳しくは話さんが、簡単にえば、意見の相違だ」
「意見の相違?」
「あちらにはあちらの、こちらにはこちらの意見がある。それを人間たちが、いろいろとわかりやすいよう、受け入れやすいように曲解した末に相容れない存在として描いたのだ。光があれば、闇がある。神と悪魔は、表裏一体。だが、似ているようで違うものだ。わかるかな?」
「なっ、なんとなく」
「小難しいことは、まぁよい。さて、マリー。お前は、どうしたい?」
「悪魔になって、アスタロト様のお嫁さんになたいです」
「ほほう」
「おまえ~」
「イイじゃない。なんでダメ?」
「だから、頭おかしいのか!?」
「そうよ。ええ、そうかもしれないわ。人間に騙されて、殺され続けたの。あの手この手で、信じていた人たちに」
「……すまん」
「悪魔だけど、アスタロト様だけが、わたしを助けてくれた」
「それわそれは、いいことじゃないか」
「悪魔なんだぞ、相手は!ワケがあるに決まっている!」
「いいの!理由なんかいらいない!助けてくれた。心配してくれた。不安な時、怖かった時そばで、楽しい時間にかえてくれた。死ぬとき、そばにいてくれた。それだけでわたしは安心できた。また、会いたいとおもえたの」
「もういいよ、マリー。辛かったな。よくがんばってきたな、偉かったな」
「ううん」
「マリーよ。最後の審判だ」




