㉔王太子戦その1
許せない。
お金のためだけにお父様たちをとらえるなんて。
お母様や妹たちにとっては、さぞやショックだろう。
ー我に愚弟がいる。弟に手をまわしてもらう。家族のことは心配するなー
ー弟君?弟君ががいらっしゃるんですか?ー
ーああ、だから、心配するな。オイジュス王太子のペースにるな。落ち着くんだー
アスタロト様の励ましに、わたしは、落ち着きを取り戻した。
オイジュスは、まともな男ではない。
奴の言うことを真に受けてはいけない。
フーっと大きく息を吐いた。
ちらりとアスタロト様を見上げた。
目が合いもう大丈夫だとアイコンタクトで伝えた。
「オイジュス、そんなにわたしを殺したいの?」
「当たり前だろう!」
「なら、あなたにチャンスをあげるわ」
「チャンス?」
「そう。しかも、正々堂々と胸を張って、あなたの大事な大事な宗主国へも嬉しい報告になるわよ」
「なんだそれわ!?」
「『悪魔』になったわたしと決闘するのよ」
「決闘だと!?」
ー正気か?マリーー
アスタロト様の肩におかれた手に力がこもった。
わたしは、その手にそっと手を重ねた。
わたしは、至って冷静で、大丈夫だと伝えたかった。
ーわかったー
「ええ、そうよ。悪魔になったわたしは、人間の頃よりなんでも出来るようになったわ」
「へぇー、でも、女と決闘したとあっては王太子の名が廃る」
オイジュスにすたるほどの名があっただろうか?
わたしとアスタロト様とヤギハシは、思わず顔を見合わせてしまった。
ーユーモラスな男ですね、アスタロト様ー
ー口が過ぎるぞ、ヤギハシー
ーアスタロト様、ヤギハシさんの言う通りですー
ヤギハシさんは、ほらねっという顔をしていた。
けれど、オイジュスの一言で、あいつの功名心を刺激するこの策は、成功すると確信をえた。
「あら、いいの?こんな絶好の機会をみすみす見逃しても?」
「女と勝負なんかできるわけないだろう?」
「だから、ただの女じゃないのわたしは、『悪魔』なの。悪魔を退治したとあれば、宗主国の偉い方々の覚えがよくなるんじゃないのかしら?しかも、わたしを殺す口実もたつし、絶好のチャンスだわ」
ーわかりやすすぎないか?マリー。我なら引っ掛からんぞー
ー大丈夫ですわ。オイジュスは、アスタロト様のように思慮分別のある男ではありませんー
「ふぅーん何か隠してないか?」
ーマリー様の言う通りですね。ちょっと興味持ってますよー
ヤギハシさんのシニカルな思念が伝わってきた。
「隠すって?」
「悪魔の凄い必殺技を使えるとか?」
「そんなわけないでしょう?悪魔になってまだ、日が浅いのよ?そんな凄い技、使えるわけないじゃない」
ーマリーー ・ ーマリー様ー
アスタロト様とヤギハシさんが、ハモった。
ー嘘は言ってませんよ。初歩の初歩だって仰ってたじゃないですか?ー
ー『地獄の業火』は大技だろうー
ーああ、アスタロト様、それなら心配には及びません。マリー様ができるのは、『地獄の灯ちょっとの風で消えてしまうバージョン』ですからー
ーコック長からは、重宝がられましたわよ。かまどの火付けにちょうどいいってー
だから、決して嘘をついていない。
「正式な決闘だと馬上で槍を用いてとなるけど、ハンディをあげるよ」
「へぇーありがとう。どんなハンディ?」
ーマリー様、棒読みですよー
「一対一の剣をもちいた決闘なんてどう?」
ー見下げた男だなー
アスタロト様はあきれ顔だった。
「わかったわ」
ー勝算はあるのか?ー
「元ぼくの新妻なんだ。それくらいのハンディは当然さぁ。馬上で戦うより、簡単だろ?でも、殺されても文句はいうよなよ」
あまりのオイジュスの物言いに、わたしたちは呆れかえっていた。
「わかっているわ」
ーマリー様、士気が下がってますよ~ー
ーヤギハシ!お前も緊張感を持て!マリーは、ひとりでヤツと闘うんだぞー
ーはぁ~。心配しすぎですよアスタロト様。相手は、オイジュスですよ。緊張感をもてって方がムリですよ。それに、いざとなったらー
いざとなったら?なに?
「ああ、エリスも来ればよかったのに。エリスお姉さまは、お前が大嫌いなんだ。だから、君がぼくに無様に負けて死ぬところを見たら、喜ぶよきっと!!」
「あら、知ってるわ、そんなこと」
「!?」
「頭がよくて、お金持ちのわたしのことが、エリスは、大嫌いなんでしょう?」
「へぇー。君は知ってて、エリスお姉さまの神経を逆なでしてたのかい?ずいぶん性格が悪いんだねマリー。エリスお姉さまが言ってたとおりだ!」
ーアイツ、我がヤルー
ーだめですよ、アスタロト様。もぉ、マリー様のことになるとすぐこれだー
ーうるさい!ヤギハシ!ー
「じゃぁ、早速だけど、気が変わらないうちに始めようか」
わたしとオイジュスは、決闘の場に臨んだ。
ーあせるな、マリー。わたしのアドバイスどおりにうごけるか?ー
ーはい、アスタロト様ー
そうだ。
わたしには、アスタロト様がついている。
剣を胸の前で構える。
お互いの剣を交差させ、太刀をあわせる。
もう一度、胸の前で構えて、開始の合図を待った。
教会の鐘の音を合図が鳴り響く。
決闘の開始の合図だ!
ー視覚に集中しろ、そうすれば、太刀筋はたやすく見抜ける。剣を下から上に大きく動かすんだー
ほぼ同時にわたしの体は、自然にアスタロト様の言葉通りに動いた。
オイジュスの剣をすくいあげた。
たやすくオイジュス、の剣は手を離れ宙を舞った。
気が付くと、わたしはオイジュスを見おろしていた。
剣を喉に突き当てんばかりに構えていた。
ーそう、それでいい、マリー。だが、油断するなー
「たすけてくれ、マリー。後生だよ」
「へスぺリデス家のみんなをよくも」
わたしは、剣を構えなおし、切っ先が煌めいた。
「マリー落ち着け、ちょっと大袈裟に話しただけだ。みんなは無事さ。宗主国で投獄されているだけだ」
「危害を加えてはいないのね!」
「もちろんさぁ、落ち着けよ。当主のお父様がいなければあ、へスぺリデス家の全財産のありかや隠し場所もわからなくなっちゃうだろう?」
「ああそう。お金のためなのね。」
やっぱり、殺す!
「まてまてまてよ~、大丈夫だって、無事さぁ~。そんなに怒るなよ。悪魔の君に勝てるわけないさ」
ーへスぺリデス家当主は、たやすく屈したりしないだろう。上手く立ち回っているはずだ。弟にも、もう向かわせているー
アスタロト様の言葉には一理ある。
ならば、次の要求だわ。
「騎士たちに武装解除を命令して」
「えっ!?」
「さぁ早く!それからあなたを宗主国との人質としてー」
「それはどうかな?」
取り囲む兵士たちの間から剣が投げ込まれた。
刺されたと思った瞬間、わたしはアスタロト様の傍らにいた。
「卑怯だぞ!悪魔の力を使うなんて」
「言ってて恥ずかしくないか、お前!?」
「マリー大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
「くっそうこうなったら、お前たち数の恐ろしさを教えてやる!!」
「大体、悪役はああいうこと言いがちなんすよね~」
「ヤギハシ、茶化すな」
「いつぞやの敵役のとき、あのセリフのまんま言いましたもん」
「ああ、あの時か?ヤギハシ、棒読み過ぎて不自然だったぞ」
「それは、失礼いたしました、以後気をつけます」
「うるさい!うるさい!うるさいぞ!!」お前ら、ええい、かかれー」
オイジュスの掛け声は、やっぱり緊張感に欠けて、しまりがなかった。
「でも受け立つわ、卑怯者!!」
わたしの言葉にオイジュスは、顔を真っ赤にっして怒っていた。




