㉕王太子戦その2
多勢に無勢。
人数でいえば、不利なのは、わかりきっている。
数のうえでは、勝敗は明白だった。
オイジュス王太子側の圧勝だわ。
でも、多数決がまかり通る議事室ではないのだ。
だからここでは、数の有利なんて、まったくなかったのだ。
ヤギハシさんは、一見、物腰柔らかに見えるが、慇懃無礼で、不遜な戦いぶりだった。
つまりは、こんな感じ、いつも通りだ。
「申し訳けありません。ニンゲンの皆さん、わたくしめが圧倒的に強すぎてすみません」
心にもない謝罪を口にしながら、落ちていたのを、踏んだら危ないからという建前で拾った剣で戦っている。
けっして、強奪したわけではない。
けれど、それ以上にに凄かったのは、アスタロト様だった。
悪魔の世界で侯爵の地位を有するのは伊達ではなかった。
彼のもつ剣のひと振りで、一瞬で薙ぎ払われていく騎士たち。
アスタロト様に近づかづかない策をとっていた、遠巻きの騎士たちですら、なぎ倒されていた。
アスタロト様の前に作戦など意味をなさなかった。
「造作もない」
「凄いです!アスタロト様」
アスタロト様が、フッとかすかに口元に微笑を浮かべたその瞬間、
「マリー様に褒められて喜ぶなんて、単純な方ですね」
「五月蝿い!ヤギハシ、今度そんな軽口をたたいたら承知せんぞ!!」
「あら!?アスタロト様!喜んでくださっているのですか?」
「マリー!喜んでない!嬉しくなんかない!」
ーうん?……照れてる?ー
「照れてないし!慣れてるし!!」
なんだかうれー
「喜ぶなマリー!王太子の姿が見えないぞ!!」
「ほんとですわ!?」
「王太子はいなくても、わたしはいますよ」
わたしにむかって切りかかってくる騎士がいた。
でも、その騎士は、騎士らしからぬ動きをする。
騎士は背後から切りつけたりしない。
騎士の誇りがあるからだ。
ということは、あの殺し屋だ。
「お二人とも、ここは、わたくしめが引き受けます。王太子を追ってください」
わたしとアスタロト様は、顔を見あわせ、おおきく頷いた。
ー大丈夫だ、ヤギハシなら。ああ見えて性格の悪さも、剣の腕前も一級品だー
プっと吹き出してしまった。
ー笑えるようなら大丈夫だな。マリー、王太子を討つぞ、しっかりつかまれー
アスタロト様に抱えられひらりと空中を飛ぶ。
木々の上を優にこえてゆく跳躍力。
アスタロト様は、こんな力もお持ちなのだと驚いた。
逃げる王太子の姿を悪魔の力のひとつの超視覚でとらえた。
ーあそこです!ー
ー前に出るー
王太子の逃亡経路を阻むように着地した。
アスタロト様は、オイジュス王太子と前をゆく警護の騎士との間にわってはいった。
「あら?どこへ行くおつもりかしら、オイジュス王太子!?」
「うっっ!きっ汚いぞ!やっぱり悪魔の力を身につけてるじゃないか!」
「悪魔になっていると、ちゃんと最初に教えてあげたでしょ。どんな技が使えるか聞かなかったあなたが甘かったのよ」
「くっそー」
王太子は、間髪入れずにわたしに切りかかってきた。
ーマリー後ろへ跳躍しろー
ーはいー
アスタロト様のアドバイス通りに動き、王太子の突進を後ろに飛びかわした。
オイジュス王太子は、大きく前につんのめるように倒れこむ。
「!?」
えっ?うそでしょ?かわしただけで、なんにもしてないのに。
ーそいつは、運動神経がよくない。そのうえ、鍛錬の類なんかとは無縁なヤツだー
「よくも……ぼくに恥をかかせてくれたな~」
「なんにもしてないわよ?勝手に転んだんでしょ?」
「うるさい!うるさい!!うるさい!!!殺してやる!!!!」
オイジュス王太子は、共の騎士から剣をなかば強引に奪い取ると、わたしに構えて切りかかってきた。




