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⑬疑惑の男


 緊張していたのは、つかの間だった。


辻馬車らしからぬ静かな走りは、快適そのものすぎた。


いつの間にか、わたしはすっかり眠っていた。


「……オイっ、起きろ、マリー」


『マリー』という呼び名にビックとして起きた。


「どうして?いや、わたしはーー」


「すまない間違えた。お前のところのお嬢様の名まえと言い間違えただけだ」


本当だろうか?


もしかしたら、この男は……殺し屋?


「あと数時間もしないうちに目的地の修道院に着くぞ。だが、ここまで走りどおしだ。すこし休むぞ」


わたしは、断定口調の御者への不信感をつのらせた。


窓の外の景色が、すっかりのどかな風景に変わっていた。


御者とこちら側のキャビン部分には小窓があり、会話はスムーズにできる。


「休めるところなんてあるのですか」


まさかまた、前世の時の小屋だったりしないよね……。


「ああ、この先に小さな村がある。その入り口に修道院へ礼拝に行く巡礼者が立ち寄る小さい食堂がある」


「詳しいのですね」


前世と設定が、若干じゃっかん変更されているが、警戒したほうがいい気がする。


でも、殺されそうなときに感じるイヤ感じがしない。


でも、なにかが引っかかる。


に落ちないのだ。


「呼ばれたときに、修道院だといわれたからな。長距離な分、いろいろ考えるさ。呑気のんきに居眠りしているお前と違って」


バレてた。


「馬も、俺も、ヘトヘトだ。そこへ向かうからな」


「……わかりました」


わたしに選択権はなかった。


「もう少し休んどけ。第一、お前も夕べからろくなもん食ってないだろう」


言われてわたしはハッとした。


御者の何気ない一言に優しさを感じたが、(さきんじて、わたしの腹の虫がそうですわと優雅にこたえてくれた。






 ほどなくして食堂のある村に着いた。


王都では見たことない店構えで新鮮だった。


店というより、農村の一軒家という感じだ。


見かけは素朴な店構えだけれど、近づくにつれ何とも言えないおいしそうなニオイにお腹の虫が一斉に泣き出した。


御者がタイミングよくわたしから離れていてたので、聞かれずにすんだ。


でなければ、また、珍妙ちんみょうな生き物を見るような、見下すような目でみられるところだった。


御者は、馬を馬車からはずし、簡素な繋ぎつなぎばに馬をつないだ。


馬は、気持ち様さそうに体をブルブルっと振るった。


ここまでの長距離の移動は、さすがにこたえていたらしい。


一見すると不愛想ぶあいそうな御者だが、相棒の馬には優しそうな笑みを向けている。


人間には、向けられないのものなか?


二度三度、馬の背を軽くたたき、労をねぎらっていた。


あんな柔和な顔ができるのだと驚いた。


御者は、あらかた馬の世話を終えてから、わたしを食堂に案内した。


けれど、その様子は、さながら舞踏会でエスコートする紳士のそれであった。


御者は、それまでの距離感を無視して、親しげな素振りで身を寄せるようにして話しかけてきた。


「ここでは、俺はお前の男だ」


「わたしの男とは?」


「ボーイフレンド、婚約者、夫、なんでもいい、そういうことだ」


「おつきあいは、していませんが?」


「そういうことではない……お前と話していると調子が狂う。こんなだったか……まぁいい。ふり、設定だ。そうじゃなければ、おかしいだろう。若い娘が、一人で来るのは。おかしいと怪しまれるぞ」


御者の能面顔(のうめんがおが、くずれてきた。


「そうでしたか。わかりました」


「お前のなまえは、マリアだ。おれはタロウだ」


勝手に名前を決められてしまった。


やっぱり、横暴な男のようだ。


しかも、わたしの事知っているとしか思えない!?


「タロウ? 苗字みょうじは?」


「姓名は必要ない。高級レストランじゃないんだ、みよじを名乗ったりはしない」


「そういうものなんですね」


「ああそうだ。それから、あんまり中では口をきくな」


「どうしてですか?」


「正体がバレるぞ」


ドキッとした。


この男は、わたしが、マリー・へスぺリデスだと知っている。


「おれは、余計な詮索せんさくはしない。金になればそれでいい。お前を修道院まで送り届けたら、成功報酬で、手付金の10倍くれることになっている」


なんだか、はなしが安直な気がする。


ほんとに、そんな儲け話にのるタイプかしら?


隣の男は、そんな安直な性格にはおもえない。


慎重な切れ者のイメージだから。


わたしより、頭二つ分くらい高い位置にある白皙はくせきがそう思わせる。


いいえ、あの黒曜石をおもわせる漆黒の切れ長の目がそう感じさせるのだ。


「話は、俺がする、お前は、適当に話を合わせていればいい」


「わかりました」


話がおわるころ、店の中にはいり、店主らしき男から、いらっしゃいと声をかけられた。




 御者への警戒はおこたらないよう肝に命じはしたけれど、悪い人の様には、やっぱり思えなかった。


店主がテーブルに案内されるまえに、タロウさんにさりげなく席をすすめられた。


ついた丸テーブルをはさんだ向かいの男の真意がつかめない。


優しいのか?


不愛想なのか?


粗暴そぼうなのか?


冷静なのか?


考えがまとまらない。


「オレと同じでいいな。」


右手をスッとあげ御者は店主をよんだ。


「あいよ。いらっしゃい。なんにする?おすすめは鳥料理。うちは、特製グレービーソースとマッシュポテトが売りなんだよ。どうだい?」


美味しそうだわ。


きいてるだけでよだれが~。


「それをもらおう。バケットも」


へぇー素朴なお店なのに、王都のレストランと変わらないメニューなんだ。


「バケット?そんなもんー-」


タロウさんは、近くのテーブルを目線でさした。


「ああ、黒パンのスライスね。バケットって、お兄さん、イイとこの人かい?」


「いいや、でも、王都のデカい商人にひいきにしてもらって、よく出入りしている」


「へー!じゃ、へスぺリデス家か!?」


店主の口から、へスぺリデスの名を聞きドキリとした。


「ああ、そうだ」


えええ!認めちゃうの?


「そりゃすげぇ!!じゃ、あの話はほんとかい?」


「なんだ?」


「あの『世紀のアバズレ王太子妃』のことさ」


「なんてこと!!」


ドン!


テーブルをたたき思わず立ちあがっていた。


店中みせじゅう)の注目を集めてしまった。


「王太子妃は、不義密通してたって……みんな言ってー-」


「そんなことしていません!!」


「なにをむきになってる!?だからわかっている。お前の大好きな『お嬢様』がそんなことするわけないんだろう?品行方正、お嬢様の鏡なんだろう?もうわかったから。落ち着いて、座れ」


タロウさんは馬にするようにわたしの肩をポンポンとたたきおちつかせてから木のイスに座らせた。


「いやぁ~。ほんとにへスぺリデス家のメイドさんか……」


「お嬢さま付の専属のメイドなんだ」


「そりゃぁ……悪りぃこと言っちまったな」


つい、ムキになってしまった。


口をきくなと言われたばかりだったのに。


タロウさんは、うまくごまかしてくれた。


「いま、大変だろうに」


「ああ、奥様は、卒倒してたおえられ、お嬢様付きのメイドのコレに、奥様から『お嬢様の無実が晴れて、無事に戻ってくるよう』神様にお願いして来いと名代みょうだいをたのんだんだ」


「妹とじゃないく?」


「ああ、いまや、へスぺリデス家の家人は、外出なんてできないからな」


「そうか。あそうだよな」


「ちょっと!アンタ!!いつまで油うってるんだい!鳥がすみになっちまうよ」


「おっといけねえ。ゆっくりしていきな。お嬢さんが戻るといいな」


店主は厨房ちゅうぼうの女性の声のもとに慌ててもどっていった。


「気にするな。へスぺリデス家の人間で、王家の言い分を信じている者などいない」


「世間では、そう思われているのですね……」


「知ったことか、他人など。お前を信じている者にだけ、真実が伝わればいいとは思わないか?」


「!!」


「へスぺリデス家の当主は、お前を信じて動いている。アイツは、切れ者だ。どこかのバカ王太子とは違う」


「おとう……」


御者の人差し指がそっとわたしの唇にふうをした。


「シっ!お前は、メイドでオレの女だ。言葉には気をつけなさい」


「あっ、ありがとう」


「とにかく食べろ、どうせ、口には、あわんだろうからな」


タイミングよく、さっきの店主がチキンローストをテーブルにおいた。


「都会と違って、色黒いろぐろだな」


タロウさんの言葉にわたしは、少し笑った。



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