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魔物使いポルタ



魔物使いのポルタは、旅の途中で一匹の小さな魔物と出会った。


森の奥。


木の根元で、小さな体を丸めて震えていた。


丸い耳。

短い尻尾。

茶色い毛。

大きな瞳。


ポルタが近づくと、魔物は怯えて後ずさった。


「……大丈夫だ」


ポルタはしゃがみ込み、持っていたパンを半分に割った。


「食べるか?」


魔物はパンを見つめたまま動かない。


「毒なんか入ってないよ」


ポルタが一口かじってみせる。


すると魔物は、恐る恐る近づいてきた。


小さな手でパンを受け取る。


そして夢中になって食べ始めた。


「はは……よっぽど腹が減ってたんだな」


食べ終わると、魔物はポルタを見上げた。


「お前、名前は?」


魔物は首をかしげる。


「……ないのか?」


また首をかしげる。


ポルタは少し考えた。


「じゃあ……俺がつけてやる」


魔物がじっとポルタを見る。


「そうだな……」


ポルタは笑った。


「コタロウ」


魔物が瞬きをする。


「今日から、お前はコタロウだ」


すると――


短い尻尾が、ぴこぴこと動き始めた。


「気に入ったのか?」


尻尾がさらに激しく動く。


「そっか」


ポルタは笑った。


「よろしくな、コタロウ」


コタロウは嬉しそうに、ポルタの手に小さな手を重ねた。


それが、二人の旅の始まりだった。






コタロウは、戦いがあまり得意ではなかった。


強そうな魔物が現れると、すぐにポルタの背中へ隠れる。


「コタロウ!」


ポルタが振り返る。


背中から、丸い耳だけが見えている。


「お前も魔物だろ?」


コタロウは顔を出さない。


「……まあ、いいけどさ」


ポルタは笑いながら剣を構えた。


旅を続けるうちに、二人の間には不思議な日常ができていった。


朝になれば、コタロウはポルタより先に起きる。


食事をすれば、ポルタの分まで狙う。


そして夜になると――


「……コタロウ」


ポルタが宿のベッドを見る。


コタロウが、またポルタの靴を枕にして眠っていた。


「それ、枕じゃないぞ」


返事はない。


「毎晩そこだな」


コタロウは寝返りを打つ。


「……まあ、いいか」


ポルタは毛布をかけてやった。


「おやすみ、コタロウ」


小さな寝息が返ってきた。






一年が過ぎた。


ポルタとコタロウは、どこへ行くにも一緒だった。


ポルタが笑えば、コタロウは尻尾を振る。


ポルタが落ち込めば、何も言わず隣に座る。


言葉は通じない。


それでも、二人には十分だった。


ある日の夕暮れ。


二人が山道を歩いていると、突然、巨大な魔物が現れた。


「コタロウ、下がれ!」


ポルタは剣を抜いた。


コタロウはいつものように、ポルタの背中へ隠れる。


「大丈夫だ」


ポルタは振り返って笑った。


「お前は、そこにいろ」


戦いが始まった。


ポルタは必死に剣を振った。


しかし、相手は強かった。


強烈な一撃を受け、ポルタは地面に倒れる。


「ぐっ……!」


巨大な魔物が、とどめを刺そうと近づいてくる。


「……逃げろ」


ポルタはコタロウを見る。


「コタロウ……逃げろ!」


そのときだった。


小さな影が、ポルタの前へ飛び出した。


「……コタロウ?」


いつも怖がって、ポルタの背中に隠れていたコタロウ。


その小さな体が、今はポルタを守るように立っている。


「やめろ!」


ポルタが叫ぶ。


「コタロウ、逃げるんだ!」


コタロウは動かなかった。


体を震わせながら、それでもポルタの前に立っていた。


そして――


初めて、ポルタの命令を無視した。




戦いが終わった頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。


ポルタはコタロウを抱きかかえていた。


小さな体には、大きな傷がある。


「大丈夫だ」


ポルタは何度も繰り返した。


「町まで行けば、治してもらえる」


コタロウはポルタを見つめている。


その瞳から、少しずつ光が消えていく。


「……なあ、コタロウ」


ポルタの声が震えた。


「まだ一緒に旅するんだろ?」


コタロウの尻尾が、ほんの少しだけ動いた。


「そうだよな……」


ポルタは笑おうとした。


けれど、笑えなかった。


涙が頬を伝う。


「俺、まだ行きたい場所がいっぱいあるんだ」


「一緒に見ようって言っただろ……」


コタロウは何も言わない。


ただ、小さな手でポルタの指を握った。


「……コタロウ」


ポルタは、その小さな体を強く抱きしめた。


「嫌だ……」


「置いていかないでくれ……」


やがて、コタロウの手から力が抜けていく。


そして――


静かに目を閉じた。





夜が明けた。


ポルタは一人で山道を歩いていた。


隣には誰もいない。


いつも背中に隠れていたコタロウもいない。


夜になっても、靴を枕にする小さな姿はない。


ポルタは何度も振り返った。


「……コタロウ?」


返事はない。


もう一度。


「コタロウ」


やっぱり、返事はない。


ポルタは立ち止まった。


そして、ゆっくりと目を閉じる。


「……最後に、一つだけ命令していいか?」


返事はない。


それでもポルタは、そこにコタロウがいるように話しかけた。


「もう、俺を守らなくていい」


「ゆっくり休め」


ポルタは涙を拭った。


「今まで……ありがとう」


そして歩き出す。


数歩進んだところで、ポルタは足を止めた。


足元を見る。


そこには、小さな足跡が一つだけ残っていた。


ポルタはしゃがみ込み、その足跡にそっと触れる。


そして――


「……コタロウ」


ほんの少しだけ笑った。


「またな」


ポルタは立ち上がる。


朝焼けの空に、淡い光が差していた。


もう、隣にコタロウはいない。


それでもポルタは歩いていく。


いつかまた会えると信じて。

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